寒いところで待ちぼうけ

旧・手のひらの花(初出版)

アイザックの事故から聖戦までを原作沿いの流れの中で個人的解釈により大いに捏造
第一部カミュ氷/第二部ミロ氷
改稿前の2011年初出作品

無理矢理による性表現あります。18歳未満の方、苦手な方、閲覧をご遠慮ください。

第一部01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11
第二部01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11

◆第二部 06◆

 あれから、ミロと氷河はなんとなくぎくしゃくしている。
 ミロは何度か話を蒸し返そうとしたのだが、そのたびに、氷河が話を逸らしたり、ミロが話しかけたことに気づかないふりをしたりして、少しも隙を見せない。
 警戒しているのか、ミロが近づくと、するりと逃げるように身を躱す。

 ただ、唯一、夜寝る前、包帯の交換の時間にだけ、氷河はおとなしくミロに触れさせた。


 今日も、ミロの手に真新しい包帯を目にした氷河は、いつものように素直にソファへ座って待った。
 ただし、話しかけられるのを拒絶するかのように、その背は小さく丸められている。

 ミロは手際よく氷河の包帯を替えてやる。

「……?ミロ……?あの……?」

 ただし、今日は傷ついた方の目だけではなく、両目ともを包帯で塞いだ。

「……?何だよ。何のつもりだ」
 ミロは巻き終わった包帯を、なまなかな力ではほどけないようきつくきつく結んだ。
「……どうだ、見えないか」
「見えないに決まっている!痛い!外せよ!」
 怒って氷河が自ら包帯を外そうと手をかけるが、ミロはその手を乱暴に掴む。
「見えないなら、好きな人間の顔を思い浮かべとけ」
「?……どういう意……っ!?」
 氷河がミロの発言の真意を問い返す暇も与えず、ミロは氷河の唇を自分のそれで塞いだ。
 ミロの唇の下で、氷河の抗議や疑問の混じった声が押しつぶされる。
 震える冷たい唇に、自分の熱を移してやるようにミロは二度、三度と唇を押し付け、さらに、舌を忍び込ませようとしたが、氷河は両腕を強くつっぱり、それを阻止する。

「やめろ!冗談でもそれ以上したら許さないからな!」
「ほう。許さないというのはどうするんだ。俺も殺すか」

 氷河の全身が硬直した。
 唇がわなわなと震えている。
 言ったミロの心も痛い。
 だが、さらにミロは重ねた。

「さあ、やれよ。やらないなら、俺は止まらないぞ。力で君には負けない」
「離せ!嫌だ!」
「わめくな。暴れるな。言っただろう。好きな人間の顔を思い浮かべておけ、と。君に触れているこの手は、君がこいねがっている人間の手だ。この唇も体も君が今ここにいてほしいと切望している人間のものだ。そう思え」
「何考えてるんだ。何する気だ!」
「特別に俺を好きな名で呼ぶことも許してやろう。……なんなら、先に希望を聞いておこうか。優しくされたい?それとも激しく?」
「やめろ!あなたは……カミュじゃない……!」
「なるほど。君がこういうふうに触れてほしいと願っている人間はカミュだというわけか」
「!!ちがっ……」
「違わない」

 押し問答を続けながらも、ミロは氷河を追い詰めていく。
 氷河は身をよじってソファの隅まで逃げたが、もう後ろはない。
 ミロは氷河の上にのしかかる。

「先生は、先生はあなたとは全然違う!カミュ以外にこんなふうに触れてほしくない!」
 ミロは行為の強引さとは逆に、優しく氷河の柔らかい髪をすいてやった。
 氷河の体が、ビクリと跳ね上がる。

「ほら……この手はカミュの手だ」
「やめろ!」
 氷河は拒絶の言葉とは裏腹に、ミロの手を押しとどめようとはしない。
 ミロは、何度も何度も、幼子にするように頭をなで、髪をすき続けてやる。
「だめなんだ……頼むから……やめてくれ」
 勢いがよかった氷河の言葉が次第に懇願になる。
「そして、この唇はカミュのだよ、氷河」
「やめろ……」
 ミロは氷河の額に軽く触れるようなキスをおとしてやる。
 氷河はミロの下でまだ抵抗の声をあげている。
 ミロはゆっくりと、額に、頬に、髪に、次々とキスの雨をふらせていく。
 抵抗する氷河の両手を掴み、最後にもう一度唇に触れ、荒々しく、舌を侵入させる。
 氷河は歯を食いしばってその先を抵抗する。
 ミロは、唇の内側の、氷河が自分で噛んだ傷痕を舌で抉るようになぞった。思わず氷河が呻く。

 痛いか。
 痛いだろう。
 泣くほど痛いはずだ。
 泣け。
 今なら泣いても俺のせいだ。
 包帯がお前の涙を隠してくれる。

 ミロはさらに深く口づける。口の中に血の味が広がる。
 ミロにとってこんなに痛く、苦しいキスは初めてだ。
 胸が張り裂けそうに痛く、激情を持て余す。

 痛みのためか諦めか、氷河の抵抗が弱まってきた。
 ミロは歯列を割って、奥で震えている舌を絡め取る。
 わずかに氷河の体が震え、再び、ミロの体を押し戻そうと両手に力を入れる。
 だが、ミロはそれを許さない。再び傷を抉る。氷河は呻いて力を抜く。
 その繰り返しだ。

 さんざんに口腔を蹂躙しつくし、ようやくミロは氷河を解放した。
 氷河の息があがり、白い肌が上気している。
 ミロは氷河の服の下に手を差し入れ、その肌に指を這わせた。
「……っ」
 氷河が驚いて、四肢をこわばらせる。
 視界を遮られているので、ミロの行為の予想がつかない。
 ミロは乱暴に氷河の服を脱がせた。
「や、やめろ!ミロ!」
 激しく暴れて抵抗する氷河の両腕を押さえつけた。
 氷河の手のひらの傷が開き、また血がにじんでくる。
 こんなに暴れられては傷口が広がる一方だ。
 ミロは、押さえつけた氷河の両腕を、残りの包帯で後ろ手に拘束した。
 氷河は暴れて、手足を振り回すが、視界を遮られているため、少しもミロに当たらない。

「いやだ!何するんだ、離せ!」
 その体は震えているのに、精いっぱいの虚勢を張って、拒絶の言葉を投げかけてくる氷河の頬を宥めるように撫で、耳元に口を寄せる。
「氷河。カミュだと思え」
 そうして、柔らかな耳たぶを甘噛みしてやる。
 指先は胸へとすべらせる。
 ミロは甘噛みした耳から、うなじ、鎖骨、とゆっくりと舌を這わせていく。
 そして、指先で弄んでいた胸の突起にたどり着くと舌先でそれを強くはじいてやった。
「……っ」
 抵抗しながらも、氷河は微かに声を漏らした。
 が、次の瞬間、そのことに、戦き、恥じたように顔を背けた。
 ミロはその反応が気に入り、わざと水音を立ててさらにそこを舌で刺激しながら、掌を氷河自身へと這わせた。
「……!なっなにを……!やっ……だっ……」
 突然の、直截的な箇所への刺激に、再び激しく抗議の声を上げ始める。
 ミロは舌では胸の先端を嬲りながら、氷河のものを握り、何度か掌を往復させる。
 抵抗の声とは裏腹に、それは少しずつ立ち上がりはじめる。
 上下どちらからも刺激を与えられ、氷河のものは次第にせつないほど張りつめはじめた。
「……っ……ん……」
 時折、吐く息とともに声が漏れる。
 喉の奥で押し殺した声が逆になまめかしいということに本人は気づいていない。
 ミロの掌が、握りこんだ氷河のものから零れた滴で濡れはじめ、くちゅくちゅと音を立てる。
 氷河のかすれた声とその水音だけが響き、淫靡な空気が二人を支配する。

 ミロはさらに激しく氷河を追い詰め、感じまいと必死で抵抗していた氷河はついに限界を迎え、その精をミロの掌に吐き出した。
 息が上がり、肩が大きく上下している。
 だが、呼吸が整うのを待たず、ミロは氷河の体を裏返し、それを氷河の後孔へとゆっくり塗り込めた。
 今度こそ、大きな悲鳴があがる。
「いやっいやだ!それはいやだっ!ミロ!」
 跳ね上がる体を、自分の膝で押しとどめる。
 腕を拘束され、うまく身を起こせず、身をよじる様子は、却ってミロの欲情を刺激する。
 ミロは氷河の抵抗に構わず指を奥まですべらせ、耳元へかがみこんでさらに囁いた。

「氷河。カミュだと思えと言ったろ。……それとも、泣き叫んで『先生』を呼ぶか。あいつは来ないぞ。……もういないからな」

 そう言いながら、指の腹で内壁を擦りあげる。
 さらに奥を探り、秘所を探し当てると、指を鉤のように曲げ、激しく責め立てた。
 氷河は自分の意志に関係なく、強制的に与えられる快楽に翻弄され、喘ぎ、苦しんだ。
 だが、カミュの名を出したとき、その人を求めるように内襞がびくりと蠕動した。
 そのことに、妬気を煽られ、ミロは激しく昂ぶった。
 指を引き抜くと、自分の欲望の猛りを押し当て、一息に奥まで突き入れる。
「ああああ―っ」
 氷河は弓なりに背をのけぞらせて、悲鳴をあげた。
 ミロはその体を激しく突き上げる。それに合わせて声にならない悲鳴が氷河の喉から迸り出る。
「……やっ……ああっ……ん……あ……あ……」
 執拗に責め立てられ、氷河の悲鳴が次第に嗚咽へと変わっていく。

 そうだ。
 泣き叫べ。
 何もわからなくなるほど。
 もっと。もっと。

 ミロはそうすることで、氷河の心の奥底までも揺さぶることができるかのように、激しく体を重ねた。

 氷河は揺さぶられては泣き、拒んでは泣き、感じては泣き、そしてまた恥じて泣いた。

 何度目かわからない限界を迎えたその身がくずおれる瞬間、かすかに唇が「カミュ」と形作ったように見えた。



 ミロの胸で氷河が眠っている。
 そっと包帯をはずした。
 きつく結んだため、こめかみが朱くなっている。手首も朱い。
 そこへ唇を押し当てた。
 はずした包帯が濡れている。
 少し傷口も開いたようだ。血もにじんでいる。

 氷河は散々泣き叫んでいた。

 ミロは先ほどまでの暴力的な行為とは裏腹に、眠っている氷河の髪をやさしく撫でてやる。
 いつまでも。いつまでも。