寒いところで待ちぼうけ

旧・手のひらの花(初出版)

アイザックの事故から聖戦までを原作沿いの流れの中で個人的解釈により大いに捏造
第一部カミュ氷/第二部ミロ氷
改稿前の2011年初出作品

性表現あります。18歳未満の方、閲覧をご遠慮ください。

第一部01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11
第二部01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11

◆第一部 08◆


 ついに、「その日」は訪れた。
 カミュは手元の勅命書を、何度も確認するように目で追った。
 要件は二つ。
 一つ目は申請していた、氷河へ白鳥座の聖闘士の称号を与えることを許可すること。
 二つ目は、急ぎ、聖域への参上を求めるもの。
 聖域に、氷河の聖闘士認定の申請を出したのは、ほかならぬ自分だ。黄金聖闘士である自分が、推薦状を添えて申請すれば、間違いなく通るだろうことは知っていた。それなのに、足元がぐらつく。

 氷河が。
 聖闘士に。

 勅命書に踊る文字がカミュを打ちのめす。
 とっくに覚悟を決めたはずなのに、いざその時が来たと思うと、現実をなかなか受け入れられない。

 それに加えて、二つ目の要件も、また、喜ばしいものではなかった。
 最近、聖域の動きが穏やかではない。内乱の可能性さえ噂されるようになっている。
 カミュはここのところしょっちゅう聖域に呼び戻され、シベリアにいる期間よりギリシャにいる期間の方が長いほどになっていた。実際、聖域で、シベリアに戻らないように釘を刺されたこともある。本来業務の十二宮の守護を優先させよ、と。
 今まで氷河を理由に断ってきたが、こうして、一人立ちの日を迎えたとあっては、次にギリシャに行った時、そのまま帰ってこられなくなるのは目に見えていた。

 時間が二人を避けて過ぎ去ってくれればいいのに、と思いながらも、カミュにはやはり、自分の任務を放棄する選択肢はない。
 運命を呪いながらも、決してそれには逆らわない。それがカミュという人間だった。


 そっと寝室に向かう。日付も変わっているので氷河はもう眠っているはずだ。
 気配を消して、ドアから体をすべりこませた。
 案の定、規則正しい寝息を立てて氷河は眠っていた。
 眠る前に本を読んでいたのだろう、ベッドサイドの明かりが小さくついたままになっていた。
 そのせいで、首元のロザリオの銀の鎖が鈍く光を反射している。
 彼は、ついに、母に会いに行くことをやめなかったな、とため息をついて思う。
 未だ時折、内緒で母の元へ通っていることを知っている。だが、そのことはもういい。

 カミュは氷河のベッドサイドに近寄り、その枕元へとそっと腰掛けた。
 永遠にこうしていたい、と思いながら、無防備な寝顔をしばらくの間眺める。
 愛おしさで胸が痛い。
 自分の中にこれほど激しい恋情が隠されていたことに、カミュ自身も戸惑っている。
 弟子たちにクールになれ、と言ってきただけあって、感情の起伏は乏しい方だと思っていた。
 誰かを愛することはこんなにも苦しく切ないものなのか。それとも、苦しいのはこの愛が重い枷を背負っているせいか。
 氷河の柔らかな頬を指の背でするりと撫でる。
「……ん……カミュ?」
 何度か瞬きを繰り返し、氷河がカミュを見上げてくる。
「すまない。起こしたな」
「いいんです。どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。ただ、お前の寝顔を見ていた」
 氷河が恥ずかしそうに身じろぎした。
「もう……なんでそんなの見るんですか……」
 カミュは、もう見られないかもしれないからだ、と、心の中だけで返事をする。
 カミュの表情が泣き出しそうに歪められているのを見て、氷河は不審に思い、目線だけで、何かあったんですか、と問う。

 氷河、お前を手放したくない。

 しかし、カミュはそれを言葉には出さない。
 代わりに、屈みこむと、薄く開けられていた氷河の唇に自分のものを触れ合わせた。
 氷河の上にカミュの影が落ちる。
 触れ合わせて、軽くついばみ、離れる。
 氷河の薄い色の瞳の中にカミュがうつっている。
 何度も何度も口づけを繰り返す。
 最初は触れ合わせるだけ。
 そのうちに、どちらからともなく、唇を開き、吸いあげ、舌を這わせ、だんだんと激しくなる。
 粘膜どうしがこすれあう、ぴちゃぴちゃという淫猥な音がして、それがよりいっそう二人の情欲を高める。
 氷河の唇から、甘く淫らな声がもれ、カミュの首筋にすがりついてくる。
 お互い、下肢に相手の熱い欲の塊を感じ、服を脱ぐのももどかしく、激しく抱き合った。

「あっ……あっ……はあ……ん……カミュ……」
 強く求めてくるカミュに呼応して、氷河はいつになく激しく乱れた。いつもは押し殺す声も、今日は素直に解き放ち、ひっきりなしにカミュの名を呼ぶ。
 カミュも、常にない氷河のなまめかしい姿態を見せつけられ、どうしようもないほど昂ぶっていた。
 すぐにでもその昂ぶりを氷河の中に叩きつけたいのをこらえ、氷河のものを口に含む。緩急をつけて扱きあげ、固く尖らせた舌先をチロチロと根元から先まで往復させる。その先端から、透明の液体がねっとりとにじみ出てきて、根元を濡らした。
「……やっ……カミュ……もう……」
 氷河が解放を求めて懇願してくる。いつもなら、その願いを聞き入れて、さらに激しく銜え込んでやるが、今日はわざと無視して、唇を離す。
「……っ……?……や……」
 戸惑う声を聞きながら、今度は後孔をゆっくりと刺激する。周囲を円を描くように舌でなぞり、焦らすように、少しだけ舌を差し入れる。
 十分潤ったところで指にかえて、ゆっくりと侵入させる。奥までは差し入れずに、入り口付近をゆるく出し入れさせながら、同時に前の方も反対の手で刺激してやる。
「……っ……ああっ……い、いや……もう……」
 氷河はさらなる刺激を求めて、身をよじらんばかりにねだってくる。
 それも、さらにかわして、舌を胸へと這わせる。固くしこった小さな突起を甘噛みすると、氷河の体は大きくしなった。
 三カ所を同時に責め立てられ、氷河の限界が近づく。
 しかし、氷河のものが震え、達する前触れを感じるや、その直前にカミュは根元を強く握りこんだ。
 解放の歓喜を目の前に、突然出口を失って、氷河は苦しそうに喘ぐ。
「……な……に……?」
 カミュを見つめ、うらめしそうに抗議する。瞳には涙がにじんでいる。
 カミュはその涙を、舌でなめとると、耳元で低く囁いた。
「どうしてほしい?氷河」
「……そ、そんなの……知ってるでしょう……」
「ああ、知っているとも。だが、お前のかわいい声で言ってほしいな」
 そういって、また、後孔にゆるく指の出し入れを続ける。時折、かすめるように奥へ突き入れ、氷河の反応を楽しむ。
「んんっ……やあ……もう……へんになりそう……おねがい……」
「はっきり言わないか。氷河」
「う……意地悪です、カミュ……」
 ついに、氷河は泣きだしてしまう。その泣き顔すら、カミュをいっそう煽るだけだ。
「さあ……氷河?」
「……っん……ほしい……指じゃなくて……カミュ……」
 ようやく、息も絶え絶えという風情で、羞恥で顔を赤く染めながら、氷河が小さな声で言った。
 カミュは満足し、その指を一度ひきぬく。ひきぬくときに、氷河の中が、それを惜しむように蠕動した。
 氷河と向かいあい、両足を大きく開かせ、固く張りつめた自分のものをそこへ押し当てた。待ち望んでいたものを得られる安堵で、氷河の表情は恍惚としている。
 カミュはゆっくりと、その身を沈め、だが、途中でその動きをとめた。
 もっと深いところへの刺激を求めていた氷河は、自分の上に影を落とすカミュを見上げる。カミュはうすく笑って、屈みこみ、氷河の唇をゆっくり味わってさらに焦らす。
「や……カミュ……もう、くるしい……奥まで……」
 カミュは氷河の腰を押さえ、ゆるゆると入り口だけを行き来させる。
「あっあっ……カミュ……」
「どうした?氷河」
「……ぅあ……おねが……せんせ……」
 氷河は泣きながら懇願する。
 いつも優しいカミュが、今日に限ってどうしてこんなに自分をいたぶるような真似をするのかわからず混乱する。
 からだの奥がカミュを求めて発熱している。気が狂いそうだ。カミュを奥に感じたい。
 さらにカミュは、指先で、氷河の胸の突起を押しつぶすように捏ね回し、爪で弱くはじく。
「んんっ……せんせ……やっ……あっ……」
 いやいやと首を左右に振って、カミュにしがみついてくる氷河を、さらに苛むように、弱い刺激だけを与え続ける。
 氷河が全身でカミュを求めてくる姿にこの上なく愉悦を覚える。今、この瞬間は、氷河の身も心も自分のものだと思える。
 氷河の懇願の声がさらに高くなった頃、カミュは、氷河の頬をするりと撫で、そして、一気に奥まで貫いた。
「あああーっ」
 過敏になっている箇所に突然鋭利な刺激を与えられ、耐えきれず、氷河が背をのけぞらせて悶える。
 カミュは焦らした分を埋め合わせるように、最初から氷河の一番感じるところを強く何度も突き上げた。
「あーっ……やっやっ……ああっ……!」
 氷河の体ががくがくと震え、さんざん焦らされた体はあっと言う間に達してしまった。解き放った精が二人の腹を濡らす。だが、カミュは動きを止めず、さらに深く激しく抽送を続ける。
「ま、まって……まだ、せんせっ……あーっ」
 達したばかりで、ひくひくと痙攣をしている箇所をさらに刺激され、氷河の頭の中が真っ白に燃える。
 氷河の歓喜の悲鳴を聞きながらカミュも頭の奥がじんじんとしびれてくるのを感じる。
 つながっているところが、どくどくと脈打っている。
 奥まで深く深く突き入れているのに、まだ足りない。もっともっと氷河の中に入りたい。
 このまま、氷河と一つのものに混じり合えたら。
 肌どうしがぶつかりあう音にまざって、ぐちゅぐちゅと水音が響く。どこからが自分の体でどこからが氷河のものかわからないほど、熱く、深く絡み合っている。
 氷河もカミュの背中に腕をまわし、無意識に腰を押し付けてくる。
「ああっ……っ……カミュせんせ……」
 精を放ったばかりの氷河のものは、また立ち上がり、二人の体の間で擦れている。律動の刺激がそれにも伝わり、先端からとろとろと滴が零れっぱなしだ。カミュが指先で胸の突起を弄ぶと、氷河の声がさらに高くなり、カミュの背中にまわした手が、すがりついて爪をたてた。
 ひときわ深く内奥をえぐるように腰を突き動かすと、氷河はまた体を震わせて達し、同時にカミュも氷河の中に熱い迸りを放出した。

 結局、ほぼ、一晩中、氷河はその身の裡にカミュを受け入れていた。
 お互い、飢えた獣のように相手のすべてを貪りあった。
 こんなに激しく抱き合ったのは初めてだった。
 氷河はさすがに今はぐったりと深い眠りに落ちている。
 カミュは腕の中に抱いていた氷河を起こさないよう、慎重にベッドから抜け出した。



 聖域へ行かねばならない。
 身支度を整え、旅立つ準備をする。
 これ以上、氷河と一緒にいては、決心が鈍りそうだった。
 夜明けを待たず、出発しようと決めていた。
 少し考え、見えるように勅命書をテーブルの上へ広げて置いておいた。
 これで、氷河が起きた時、自分が聖闘士として認められたことと、師がまた聖域へ出かけたことがどちらもすぐに知れるだろう。もう、一人で十分やっていけるだろう。聖闘士としては。
 氷河の泣き顔が脳裡をちらつく。
 離れがたい。もう一度、氷河の寝顔を見に戻ろうか。
 だが、カミュは振り向かず、二人の結界から、雪の中へと足を踏み出した。

 カミュは思いをはせる。

 万が一の時の切り札は自分がまだ持っている。
 それを使う機会が永遠に来なければいい、とカミュは祈った。