お話と言えるほど体裁は整っていないネタ集のようなもの
(基本的には雑記です)
潜入捜査官ミロ妄想。ミロ氷ベースの氷河総受風味。
設定の性質上、反社会的行為に関する記述が多数表現しますが、それらの行為を肯定する意図は全くありません。
性表現あります。18歳未満の方、閲覧をご遠慮ください。
◆潜入捜査官ミロ ③◆
新型ドラッグの件を警察の上層部へ伝えねば、と動くミロ。
好きなアーティストの新曲が出たんだ、と軽い調子で下っ端に告げて組織を抜け出す。
裏通りのCDショップでぶらぶらと時間をつぶし、2、3枚CDを買った後はネオン街へ。(昨今は音楽配信が主流だとか突っ込んでは駄目であります!)
安物の香水をたっぷり纏わせた厚化粧の女が、お兄さん寄っていかない、とかける誘いに、しばしの迷いを見せながら頷いて、けばけばしい光瞬く店の中へ。
半裸と言ってもいい女達がひしめく店内の狭い通路を奥へ進むミロ。
どの娘にするぅ?という甘い声がかかるのを、目配せ一つでミロは封じた。
要領を得た顔で、案内の女が、たまには本当に相手をしてくれたっていいんだよ、あんたほどのいい男ならみんなタダで抱かれたっていいって思ってんだから、とため息をつきながら最奥の小部屋へとミロを案内する。
シャワーとベッド。
潔いほど「その」目的にしか作られていないこの狭い空間がミロの今日の本来の行き先だった。
うちも商売だから2時間が限度だからね、と言いおいて女はミロ一人を残して扉を閉める。
女の姿が消えると、すぐにミロはベッドへと登り、天井板を一枚はずした。天井裏から取り出したのは小型のPC。
組織の中で拾った情報はこうして警察へと送信しているのだ。
定期的に通うことも、ある程度の時間を過ごすことも不自然ではない場所として、いくつかこういう隠れ家と連絡手段をミロは持っていた。
何度か組織の下っ端連中がミロを尾行していたこともあったが、店の看板を確認して、アニキも好きだな、とニヤつくことはあっても、不審に思われた様子は一度もない。
少し考えて、買ったばかりのCDを開封してPCに差し込んでミロは曲を流す。
「自由」を歌ったその曲をこの閉塞的な状況で聞くことに皮肉を感じたが、元々本当に好きなアーティストだけあって、僅かに荒廃した心に潤いが戻るような心地がした。
ペンの中に仕込んでおいたICチップから、次々にデータを取りだしてミロはそれを捜査本部へと送信する。
と、そのとき、扉の外の空気が乱れたのをミロは感じた。
大急ぎで最後のデータを送信するために確定キーを叩き、外の気配に耳を澄ませると、聞き覚えのある声が女達の歓声に混じって飛び込んできた。
扉を開いてミロが廊下へ首を出せば、予想通り、金髪の少年が、女達に囲まれて真っ赤になって困り果てていた。
原色の派手な下着姿の女達が、坊や、あたしが男にしてあげる、と競って身体を押しつけあっている。
女性の身体に不用意に触れぬよう、両手をホールドアップして硬直している少年にミロは吹き出した。
「何やっているんだ、君は」
「ミ、ミロ……!」
地獄に仏、とでも言いたげな、すがるような瞳がこちらへ向けられて、ますますミロは笑った。色事に慣れているかと思えば、純情な一面を見せる少年のギャップが愛おしい。
「悪いな、俺の連れだ」
女達へそう声をかけて氷河の手を引いてやると、彼女たちは残念がるでなく、なぜかキャーと黄色い声を上げた。
パタン、と後ろ手に扉を引いて閉め、小部屋へと戻ると、ベッドとシャワーしかない、ピンク色のどぎつい内装の部屋に氷河はさらに目を白黒させた。
「それで?俺をつけてきた理由を聞こうか」
この状況で氷河が偶然同じ店に来た、と考えるような脳天気は誰もいない。つけてきたところを女達に見つかって無理矢理店の中へ引き込まれた、と見るが自然だろう。
案の定氷河は、あ、と口ごもって視線を伏せた。
「……お礼をまだ言っていなかったと思って……」
「礼?」
「この間、俺が……わけがわからなくなった時のこと……」
「別に礼を言われるようなことは俺は何もしていない」
それに、それではこんなところまでつけてきた理由にはならない、と眼光鋭く氷河を見れば、あなたと口をきいたと知ったらカミュ先生がすごく怒るからもうあそこでは話ができない、と俯いたまま氷河は言った。
まだ、つけてきた理由としては弱い、とは思ったが、それ以上をミロは踏み込まなかった。
今度は氷河の方がミロへと問う。
「あなたこそ……こういうところに来るような人だとは思わなかった」
拗ねたように横を向く少年にミロは笑った。
なぜ君が拗ねる。
「男だぞ?性欲くらいある」
「それはわかるけど。でも……なんていうか、あなたは……金で女を買うような人ではないと思っていた」
「買いかぶられたもんだな」
「そんなことはない。現にホラ……」
と、氷河は部屋の中を見回した。
ミロと氷河のほかには誰もいない。
女も呼ばずに一人で何をしていたんだ?という不審げな青い瞳に応えてミロは、放り出していたままのPCとCDを視線で指した。
「買ったばかりの新曲が気になって先に少し聴いていたんだ。聴いていい気分になったところでこれから女を呼ぼうとしていたのに君が来たから台無しだ」
じっと俯いていた氷河はしばらくの沈黙の後に、悪かったな、せっかくのお楽しみを、とやはり拗ねたように言った。
肩や腕がぶつからずには立っていられないほどの狭い部屋。
いつもより少し早い互いの息づかいさえ肌に感じる。
壁は薄く、隣の部屋で喘ぐ女の演技がかった高い声が、あんあんと響いている。
氷河、と呼んで肩を叩けば、びっくりするほど過剰にビクリと全身を硬直させられて、ミロは苦笑した。
「帰るぞ」
「えっ」
「今更女を抱く気分じゃなくなった。またの機会にする」
「でも、」
「ほら、君も一緒に戻ろう。途中までなら一緒でもカミュにも気づかれないだろう?こんな場所、一人で歩いていたらきっとまたあちこち絡まれるぞ、その綺麗な顔じゃな」
わかった、と一度は頷きかけ、だが、氷河はすぐに首を振ってミロの二の腕に触れた。指先が少し震えている。
「……俺が代わりに」
「なんだって?」
聞こえなかったわけではない。言葉の意味を判じかねてそう聞き返せば氷河の耳が朱に染まってそっぽをむく。
「だから。女の代わりに俺を抱けばいい。『性欲くらいある』んだろう」
「……カミュの指示か。ミロに抱かれてこい、とでも言われたか。それともカノンの方か?」
後をつけられていた、という疑心から思わず言ったミロの言葉に氷河は酷く傷ついた顔をした。
「俺にだって自分の意志はある。……俺じゃその気になれないっていうのなら、別にいい」
傷ついた瞳のまま背中を向けた氷河の腰をミロは強く掻き抱いた。
「君の意志?俺に関わるな、といつも逃げているくせにどういう風の吹き回しだ」
「………だから、礼を、と思っただけだ」
「礼ならただ『ありがとう』と言えばそれでいい。身体で払う、などという発想は捨てることだな。自分を安く売るな、氷河」
「……もういい。嫌がっているのを無理にとまでは言ってない。俺は汚れている。あなたがその気になれなくても無理はない」
「違う、そうじゃない」
離せ、と腕を振る氷河をミロは柔らかく拘束したまま、彼のブロンドに顔を埋める。
傷ついた瞳をした少年を、傷ついたままに帰すことはできなかった。さりとて想いを告げることも許される身ではない。
大切だから、心のない触れ方はしたくないのだ、とどうして告げられよう。
日の当たる場所では本来は愛を伝えあう行為だというのに、闇の世界に生きる彼らにとっては、それは金であり、欲望であり、生きる手段であり、限りなく利己的な行為でしかないのだ。
「君は汚れてなどいない」
「嘘だ。あなたもよく知っているはずだ」
「そう思うなら何故こんな世界を抜けない」
「あなたに関係ない。もういい。放せ。どうせ俺は抱く価値もない人間だ」
困った我が儘坊やだ、とミロは氷河の金色の髪からのぞくうなじへと唇を押し当てた。
あ、と抱いた身体が驚いたように強ばって、氷河が半身を捩ってミロを見上げる。
「抱いていい、と言った癖に口づけぐらいでずいぶん初心な反応をする」
ニヤリと笑えば、氷河は赤くなった頬を隠すように拳で顔を覆って顔を背けた。
「そ、そういうことはしなくていい」
「なぜだ。抱くというのはこういうことだろう。知らないのか」
氷河の頬や首筋にミロは口づけを繰り返す。
ミロから逃げるように後じさりした氷河の膝裏はすぐにベッドの縁へとつき、そのまま二人はもつれるようにその上へと倒れ込んだ。
火照った耳に、閉じられた瞼に、すがるものを探している指先に。
ミロの唇が触れる度に氷河の身体が小さく震える。
もの言いたげに薄く開いた唇へも口づけしようとした時、氷河がたまりかねたようにミロの胸へ腕を突っ張らせてそれを止めた。
「ミロ、それ、いやだ」
「怖じ気づいたか。なら最初から誘うな。途中で止められる男はそう多くないぞ」
「違う。抱かれるのはいい。でも、キスは……いやなんだ」
到底「いや」という反応にはほど遠いように見えるんだがな、とミロは苦笑する。
その理不尽な我が儘すらも可愛い、と思ってしまうほどに入れ込んでいるのだから、ミロの潜入捜査官としての命は相当に危うい。
潜入先の人間と決して心を交わすな、それがいざというときの命取りになる、と、痛いほど叩き込まれて送り出されたというのに。
それでも、彼のそんな我が儘をまともに聞いてやるような人間はほかにいないのだろうと思えば、叶えてやらずにはおれなかった。
「仰せのままに」
恭しく手を取ってその甲へキスを落とすと、それがいやだって言うんだ!と尖った声が振ってきてミロは笑う。
隣から漏れ聞こえる女の甲高い嬌声の合間合間に、氷河の唇から控えめな吐息が漏れる。
時折何かを言いたげに形作られる唇は、音を紡ぐ前に引き結ばれて、だが、ミロがその身体を揺さぶればまた何か言いたげに薄く開かれる。
「……ッ……ミ、ロ……ッ」
しなやかな四肢がミロの身体に絡みついて、浮かせた腰が奥を穿つ動きを助ける。
時折薄く開く瞳が何かを必死に叫んでいるのを滲む涙が隠している。
泣くほど悦がっているのかと思えば、そうではなく、何か、高ぶる感情を押し殺しているようでもあった。
「ミロ……ッ……あ、ぅ……」
何を隠しているのか、唇を噛んでは声を殺しているのに、漏れる音と言えば己の名。
これでキスをしてはいけないとは酷な話だ。
愛おしく思わない方がどうかしている。
心を許せるものが何もない状況で出会った、唯一の光だからこの少年に執着しているにすぎない、この感情は錯覚だ、と何度も己を戒めてきたが、こうして、己の名を甘く呼ばれる度に激しく疼く胸の痛みが錯覚であろうはずがない。
恋情と呼ぶにはあまりに激しいその感情を抱えて、己の本当の姿を偽ったままの交わりはずいぶんと切なく、苦しかった。
「ミロ、ミロ、ミ……ロ……ッ」
氷河の声が掠れ、切迫感が混じり、ミロをまるく締め付ける濡れた肉がひくひくと彼の感じている快楽を雄弁に伝える。
律動を早め、最奥を穿てば、あーっと涙を散らして氷河は首を振った。
背を駆け上がる極みの時、ミロは禁を犯して氷河の頬に口づけた。惚けた表情の氷河が気づいた様子はない。彼の流した涙のぶんだけそれは塩辛かった。
2時間と言っていたな、と、余韻に浸る暇もなく、ミロは身体を起こしてシャワーブースへと立った。
部屋の隅、安っぽいナイロンで区切られただけのスペースで汗を流す。
行為を為した後に訪れるはずの甘い充足感は欠片もない。重いものを抱えたままの交わりは、気だるさとともに苦しさを運んできただけだった。
氷河の方も、ただ、快楽に耽っているようには到底見えなかった。何をそれほど彼が思い詰めているのか、助けてもやれない無力感に打ちひしがれる。
なんのための正義か。少年一人、腐った沼から救い出してやることもできずに。
出の悪い、ぬるいシャワーに打たれたまま、ミロは大きく息をつく。
せめてなりとも、自分のもたらした情報が捜査の手を進めんがことを祈りながら、ミロはタオルを取った。
シャワーを止めようとして、思いついて蛇口をひねるのをやめた。ずいぶんガタが来ている設備だ。止めれば、次に再び出るかどうかも怪しいような。
このまま氷河を呼んだ方が早い。
そう思ってミロは吊り下げられていたナイロンのカーテンを勢いよく開いた。
てっきりまだベッドの上で極みの余韻に惚けたまま身体を横たえているに違いないと思っていた氷河は、まだ何も纏わぬままではあったが起きあがっていた。
こちらに背を向けてはいたが、シャワーカーテンの開いた音に驚いて身体を強ばらせた氷河の膝にはミロのPCが乗っていた。
「何をしている」
背へ投げかけた声はかつてなく鋭く尖っていた。
慌てて情報を送信したが、その後どうしただろうか。
履歴の削除はしたか?送信画面のままではなかったか。
やけに積極的にミロを誘った氷河の狙いはこれだったのか。
だとしたら。
捜査が動くか否か、という大きな局面だ。
知られたとしたら氷河をそのまま帰すわけにはいかないだろう。
咄嗟にミロは視線を下に向けた。
そこには脱ぎ散らかしたミロの衣服が、そのままの形で置いてある。ジャケットの内側の膨らみ。改造銃だ。チンピラよろしく(実際、今のミロはチンピラだ)その程度の獲物はミロも常に携行していた。
ミロの鋭い声に、一瞬の竦みを見せた肩がゆっくりと振り向く。
「驚いた。まだシャワーだと思った」
見開く瞳に演技の色は見えない。
にこりともしない、ミロの鋭い瞳に、それは不安げに何度か瞬いた。
「勝手に触ってごめん。……あなたがそれほど気に入ったなんてどんな曲かと気になって……つい」
見れば、こちらに向けられた小さな液晶の画面には、差し込んであるCDに収録された曲のタイトルリストが並んでいるのだった。
そうだ、カモフラージュのために、タイトルリストを呼び出して再前面に表示したままにしていたのだった。
送信画面は……そう。
すぐさま履歴を削除するところまで、が一連の動作に込みになっていて、どれだけ慌てていてもそれは今回も確実に為されていたはずなのだ。
氷河がデータの復元をする技術を持っていない限り、どこへ何を送ったか、など知る術はない。技術があったとしても、今のほんの僅かの時間にそれが成し得たとは思えなかった。
「あの……ミロ、ごめん、ほんと」
そんなに怒るとは思わなかった、としょげて俯く少年に、ミロは我に返って、いや、と声を和らげた。
「調子が悪いんだ、そいつは。だましだまし使っているからな。迂闊に触るとお陀仏になりかねん」
苦しい言い訳を、氷河は、そうなんだ、壊れてないといいけど、と素直に信じて、慎重な仕草でそれをベッドの上へと下ろした。
「君もつかえ」と氷河をシャワーの方へ押しやって、シャツに袖を通しながら、ミロは猛烈な自己嫌悪からくる吐き気に襲われていた。
今、俺は何を考えた?
ほんの数分前まで、気も狂わんばかりの愛おしさをぶつけるように掻き抱いていたというのに、俺はあの瞬間、咄嗟に銃を探していた。
万が一、正体を知られていたのであれば、俺は氷河をどうするつもりだったのか。
どれほど腐敗した世界にいても、染まらぬ自信があった。そうした己に誇りすら抱いていた。
潜入捜査官の哀れな末路として薬物中毒か組織側の二重スパイに身をやつす、というのは実はそう珍しい話ではない。ミイラ取りがミイラになる、というのはままあることなのだ。それほど人間というのは周囲の環境に流されやすく、脆い。
その中にあって、誰にも引けを取らぬ揺らがぬ正義と強い信念、だからこそ、この困難を極める潜入に選ばれたのだ、という自負は常にミロの中にあった。
だが、現実はそれほど甘くはなかった。
愛しく想う者すら信じきれない、己の保身のためならば彼に銃を向けることを躊躇わない、清く正しい理想の警官の姿からほど遠い、昏い陰を己も背負っているのだ、とまざまざと突きつけられた。
そしてその昏い陰は、殺伐とした世界に長くいればいるほど、確実にミロを蝕んでいく。
濡れ髪を拭いて、女たちの、またきっと来てねぇの声を背に外へと出て歩く。
まるで二人の間には何も起こらなかったかのように、距離は保ったままで。
「氷河」
半歩先ゆくミロが前を見つめたまま呼ぶ。
え、なんだ?聞こえない、と小走りで氷河がその横へ並ぶ。
「海は好きか?」
「海?好きな奴なんているのか。真っ黒のタールで汚れきって生き物なんか住んでいやしないのに。海は……墓場だ」
制裁を受けた末に埠頭の先から突き落とされて命を終える者の多い世界だ。氷河がそういうイメージを抱いていても無理はなかった。
「俺の生まれたところではそうじゃない。透き通ったコバルトブルーの中を色とりどりの魚が泳いでいて本当に綺麗なんだ。君に見せたい。きっと気に入る。魚でも捕ってのんびり暮らすのもいいと思わないか?俺は明日にでも発てる。君はどうだ」
二人で組織を抜けよう、と。
カノンに対して反逆の意あり、とほのめかしたも同じだ。
それはミロにとっては危険極まりない告白だった。
大事な捜査局面でとんでもないバカをやらかしている自覚はあったが、一瞬でも氷河を撃とうとしたことへの罪悪感から、それを言わずにはおれなかった。
冗談に紛れての、足ぬけしろよ、ではなく、ミロの、文字通り命をかけたひとことならば、氷河の心を動かせるかもしれない、と最後の希望でもあった。
氷河が頷けば、本当に実行する気でいた。
ミロの言葉のいつもと違う真剣さが伝わったのか氷河は長いこと沈黙していた。
やがて、再び半歩遅れとなった氷河がミロの背に告げる。
「冗談でもそんなバカなことを言うもんじゃない、ミロ。……俺は……絶対に行かない」
───そうか。どうあってもそれが君の答えか。
薄氷を踏むがごときの緊迫したやりとりも不調に終わった。もうミロには打つ手がない。
ミロは半身を振り返って氷河にCDを投げて寄越した。
「君にやろう」
えっ?買ったばかりなのに?と驚く氷河にミロは背を向ける。
「さあ、ここからは別で帰ろう。カミュに見られでもしたら君がまた咎められるのだろう」
言って、ミロは踏み出す。
しばらくして振り返ったが、氷河はまだ、ミロと分かれた分岐点で俯いていた。
来い、氷河、来て、やっぱりあなたと行きたい、と言ってくれ、とほとんど祈るような気持ちで願ったが、やがて氷河はのろのろと顔を上げて、別の方向へ向かって背を丸めて歩き始めた。
その姿を確認して、前を向き直したミロの足取りもかつてなく重かった。