12345キリリク作品
お題は「カミュ氷に入りこむ隙のない、氷河へ片思いのミロが、真摯なカノンにほだされているうちにいつの間にか両想いの愛あるお話」でした
カミュ氷、ミロ氷前提の
カノミロです。
が、今回はカノ氷で性表現あります。18歳未満の方、閲覧をご遠慮ください。
◆星の詩 ④◆
「あれ?カノン……?」
怪訝な顔の氷河がカノンの顏を見てしばらく考え込み、それから数歩下がって宮の入り口まで戻って、自分が通過しようとしたのはどこの宮であるのか確認するために上を見上げた。
天蠍宮、だよな?
氷河の内心の疑問に答えるようにカノンが笑った。
「そんなキツネにつままれたような顔をするな。お前がいるのは天蠍宮で間違ってない。久しぶりだな。またカミュのところに来たのか」
氷河はそれでもまだ不思議そうな顔をして、カノンの後ろをおそるおそる窺っている。
「心配するな、ミロならいない。だが、カミュのところへ来たのなら、今はカミュも不在だぞ。二人で教皇の間に呼ばれている。今度の任務の相談だろう」
「ああ、それで先生……」
白羊宮まで迎えに来ていなかったんだな、と氷河は思ったものの、それを口には出さなかった。
勝手知ったる十二宮だ。迎えなどなくても困らない。ただ、ほんの一秒でも早く会いたい、と思う気持ちが、いつもの出迎えがないことを寂しく思わせただけだ。
だが、そんな心の動きをカノンに知られるのは恥ずかしく、だから、その後、カノンがどうせ今上がってもカミュはいないのだからここで話し相手になって行け、と言った時、はい、と即答した。
本当はカミュが戻ってきた時にすぐ会えるように宝瓶宮で待っていたかったが、それを気取られて、子ども扱いされるのは嫌だった。
カノンはしぐさで氷河を宮の奥へいざない、勝手知ったるキッチンを使い、氷河にコーヒーを淹れてやった。
ソファへ腰を下ろした氷河の前にカップをひとつ置いてやり、自分もその隣へと深く腰掛ける。
カノンの動きを目で追っていた氷河が当然のように疑問を口にした。
「ずいぶん慣れていますね」
「時々来ているからな」
「仲がいいんですか?」
「妬けるか?」
「まっまさか!!な、なんで俺がっ」
氷河の顏が瞬時に赤くなる。
カノンの言葉に、以前、ミロにキスをされていた現場を発見されたことを思い出したのだ。
動揺して、何か言い訳を、と言葉を探しながら氷河はカノンの顏を見たが、そこに、思いのほか冷めた色の瞳を見つけて何故か背中がすうっと冷たくなった。
氷河は言い訳するのはやめて、ただ俯く。
しかし、つむじのあたりにじっと視線が定められているのを感じて、沈黙していることも落ち着かず、自分から再び口を開いた。
「ミロがいないのにあなたはここで何を……?」
「たまたまここへ訪れた時にミロがちょうど出るところだったんだ。すぐ終わるだろうからお前はそこで待っとけ、自分の守護宮がないんだからどうせ暇だろうと言われたんでな。大人しく留守を預かってやってる」
氷河の眉根が歪められる。
お前はそこで待っとけ、だなんて……。
ミロの奴、カノンのこと、そんな、犬を扱うみたいに。
それに、守護宮がないなどと。
「あなたには双児宮があるじゃないですか」
「双児宮の守護者はサガだ」
「でも、サガはほとんど教皇の間にいるのでしょう?双児宮でよく見かけるのはあなたの方です。だから、あなたの宮だ」
「その理屈で言うなら、お前だって宝瓶宮に月の半分はいるではないか。それにムウや老師はどうなる。ほとんどいない。そこにいるかどうか、ということと守護宮かどうかということは無関係だ」
そう……なんだろうか。
一瞬納得しかけたが、それでもなんとなくカノンの言っていることは詭弁のような気がした。
そこまで自分の宮ではない、と言い張る理由が氷河にはよくわからない。サガとカノンと二人の宮、ということでは駄目なのだろうか。
いや、カノンがそういうふうに言うのはいい。真の実力がある者だけが持つ、自らの力をことさら誇示しようとしない鷹揚さがそうさせるのかもしれない。
しかし、だからと言って、ミロまでもがそんな風に言うことがやはり氷河には不満に思えた。
「だとしても、ミロは、あなたに対して敬いが足らないと思う」
怒ったように唇を尖らせて言った氷河を思わずカノンはまじまじと見た。
「敬い……?」
「だって、あなたはミロよりずっと年上なのだし、それに……ものすごく強い」
カノンは苦笑して氷河の頭を撫でた。
思ったより髪の毛の感触が柔らかく、それは、日光をまだ多く浴びていない新芽のようで、子どもっぽく唇を尖らせている氷河の表情を、いっそう幼く縁取っているように思えた。
「一度は悪に堕ちた身だ。敬われるほどの人間ではない」
「そんなの……過去のことでしょう。過ちは誰にでもあると先生もいつも言ってます。問題は、過ちに気づいた後の行動にある、と。冥界でのあなたは誰よりも忠実な女神の聖闘士だった。アイザックだってあなたのことは一目置いている。……だから……」
カノンは思わず眉間の皺を深めた。
こんなふうにてらいなくストレートに認められることには慣れていない。素直に、可愛いことを言う、と喜ぶべきところだが───
それでも、俺は外道になってみせよう。
「お前は俺が好きか?」
氷河は、え?と首をかしげてカノンを見返した。
突然に風向きが変わった質問の意図はわからないものの、質問の意味自体はわかったので、ええ、もちろん、尊敬しています、と答える。
「では、カミュのことはどうだ」
「当然尊敬しています。……なんですか、急に?」
「でもカミュへの『好き』と俺への『好き』は同じではないだろう」
「それは……でもまあ似たようなものだとは思いますけど……」
「似たような?ではお前は俺に抱かれてもいいと思っているのか?」
ちょうどカップに口をつけていた氷河が、ごほっごほっと激しくむせ、みるみるうちに顔を赤くさせた。
直截な表現でカミュとの関係に言及されるとは思ってもみなかったのだろう。
「そ、それ、は、ち、違いますけど……!」
「どう違うんだ」
「だ、だから……別にあなたに抱かれたいとかそういうことは……」
「よし。抱かれたいと思うのはカミュだけ、と、そういうことだな」
氷河は赤い顔で俯いて、抱かれたいとかそういうわけではなくて……と小さく抗議していたがカノンはそれには取り合わなかった。
受け入れられなかった反論が宙に浮いた形になって、氷河は困ったようにカップを置いて両手の爪を何度も擦った。
そんな様子を横目で見て、カノンはさらに問うた。
「それなら、ミロのことはどう思う」
「え?ミロ?」
「尊敬しているか?俺を好きなのと同じように好きか?それともカミュを好きなのと同じように?」
氷河は自分の両膝をソファの上に引き上げ、その間に自分の顏を埋めるように蹲った。くぐもった小さな声で返事がある。
「尊敬はしている。けど……好きじゃない。意地悪だし」
「好きではないのに抱かれてみたいとは思うのか?」
「な!ち、ちがいます!!そんなこと思うわけない!!」
「なら、何故もっと抵抗しない」
「え?」
「ミロに好き勝手許しているだろう」
「あれは……許しているわけでは……ミロが勝手に……」
「でもお前だって聖闘士だ。本気になれば拒絶できる。そうしないのは、俺はてっきりお前はカミュもミロも両方を手玉に取りたいのだと思っていたのだがな」
赤かった氷河の顔がだんだんと青ざめたものに変わる。
拳をきつく握りしめ、細い肩を震わせている様はさすがに痛々しく、まだ年端もいかない少年に酷な言葉を次々に投げつけている自分に嫌気がさしたが、だからと言って一度始めたものをやめる気はなかった。
カノンは、じわりと氷河との距離を詰め、震えている肩を強く押して、ソファの上へとその体を押し付けるように倒した。
混乱と驚きで硬直している細い身体を、自分の重みだけで易々と押さえつけ、な、の形に開かれていた唇に咬みつくように激しい口づけを落とす。
何が起こっているのかわからずに開かれたままの、アイスブルーの瞳に映る己の姿は鬼もかくやというほど酷薄で、とても正視に耐えうるものではない。カノンは目を閉じることでそれを視界から追い出し、震えて逃げる小さな舌を執拗に追いかけ、口腔を犯し続けた。
最後にひときわ強く舌を吸い、下唇を小さく咬んで離れると、氷河はその痛みにようやく我に返った、という顔をした。
カノンはそれをせせら笑って冷たく見下ろす。
「ほら、お前は抵抗などしない。誰でもいいのか?カミュはお前をとんだ淫乱に育てたようだな」
「……っ!!」
震えて揺れていた瞳が、カミュの名を出されて、初めて強い力を放ってカノンを射すくめるように見た。
カノンの厚い筋肉に覆われた体躯の下で、細い身体がようやく暴れはじめる。
だが、やはり痛々しいほどの体格と力の差の前に、その動きは抵抗としての意味をほとんどなさなかった。
バタバタと空を切る足を割って体躯を差し入れ、必死で顏を背ける氷河の首筋に、耳にとゆっくりと舌を這わせる。
「いやだ、やめろ、カノン!なんで……っ!なんであなたがこんなっ……!」
数多くの道に悖る行為に手を染めてきたが、多分、これはその中でも最悪の部類に入る。未成熟な声が涙で揺れるのにカノン自身も息苦しさを覚え、氷河の表情から逃れるように視線を落とした先に、捲り上げたシャツの裾野から氷河の白い脇腹がのぞいていて───
───ああ、これが。
カノンが受けることのなかった十五番目の星が、そこには赤く美しく瞬いていた。
カノンの腕ひとつ跳ね除けられぬくせに(それともだから、か)、与えられた蠍の心臓を前に感じたのは羨望かそれとも畏怖か。あるいは恋情とも呼ぶべき切望感。
いずれにせよ、カノンの愛撫は急速に加減を失って、容赦のない責め立てとなって氷河を追い詰める。
「あ……っや、いや…っ…だ……っ」
必死でカノンの身体を押し戻すように暴れていた氷河だったが、カノンの舌がうなじや鎖骨をなぞり、直接肌を蹂躙する指が胸の突起を押しつぶすたびに、嫌悪とは言えない色と艶を伴ってひくひくと体を震わせ始めた。
何も知らない身体ではないことが、氷河にとって望まぬ結果をもたらそうとしていた。
その先を知らないわけではなく、だが、この程度、と流せる程度に慣れてもいない花開く前の蕾が、カノンの巧みな愛技に耐えられるはずもなく、次第に白い肌は熱をもって色づき、目尻には屈辱に耐えるためか、それとも抑えきれない悦楽のためか涙が滲み始める。
声をあげまいと必死で唇を咬む様は───やはり抵抗というよりは、誘っているようにしか見えなかった。
これでは男の熱を上げさせるばかりだ。
だが、急速に制御を失わせたカノンの熱に冷水を浴びせたのもやはりミロだった。
小宇宙が近づいてくる。
ミロだけだ。カミュはいない。
明白に蹂躙されている最中の(己がそれをしているのだ)氷河を見下ろす。
取り繕う必要はなかった。やや逸脱はしたが目的は達した。
カノンは氷河の耳朶を口に含んで(あ、と氷河の身体が跳ねる)低く囁いた。
「ミロが帰って来た。助けてもらうか?それとも、あいつも混ぜてやればいいのか?俺はどっちでも構わんぞ」
「いや…だっ……カ…ミュ……カミュ!!」