寒いところで待ちぼうけ

短編:その


星の詩④からの分岐パラレル

カノン×氷河、ミロ×氷河、ほんのりカノミロの複数プレイ。性表現あります。18歳未満の方、閲覧をご遠慮ください。

◆倒錯の三重奏◆

 自宮の中に氷河の小宇宙を感じて、上機嫌で扉を開いたミロの目に飛び込んできたのは、カミュの名を呼んでカノンに組み敷かれて暴れている氷河の姿だった。
 一瞬、ミロの動きが止まる。
 状況を確認するように、蒼い瞳が氷河とカノンの間を往復し、それからミロはゆっくりと後ろ手で扉を閉めた。

 カノンはミロを一瞥した後、再び氷河へ視線を戻し、押さえつけている腕や足はそのままに、さあ、どうする?と鷹揚に問うた。

 よりによって、こんなところをミロに見られた、どんなふうにからかわれるか、と屈辱で顏を赤くし、だが、どこかで、でも帰って来てくれて助かった、と安堵していた氷河は、宮の主の戻りに全く動じない様子のカノンに混乱で目を瞬かせた。
 どうするもなにも、早くこの手をどけてくれ、と声を上げようとした氷河の頭上へ、ヒューッとからかいの色を含んだ口笛が降ってきて、氷河は身体を硬直させた。

 ミロが、カノンの体の下にある氷河の顏を逆さまにのぞき込む。
「ずいぶん楽しそうなことをしているな、俺の宮で?」
「……っ!」
 この状況を楽しそう、などと言うミロに、氷河は、屈辱感を跳ね除けるように、キッと睨み付けるような視線をよこした。
 一瞬でも、帰って来てくれて助かった、という気持ちを抱いたことを打ち消すかのように唇を噛む氷河に、ミロはぐっと腰を折って、顔を近づける。
「君が誘ったのか?」
「違う!」
 見てわからないのか、とカノンの腕を振りほどこうとし、しかしそれが依然として強い力で掴まれていることに戸惑い、氷河のきつい瞳の色が一瞬揺らいだ。
「どうした?」
「……くっ」
「助けて欲しいか?」
「……だ、誰が、助けなんかっ……!」
 自分が置かれた状況がわかっていないかのような、生意気な口調に、ミロはくくっと喉を鳴らして笑った。
「いいのか?俺は知らんぞ?強情張らずに『助けて、ミロ』と泣いてみろ」
「誰がそんなことっ」

 カノンの腕に動きを封じられ、ピクリとも腕を持ち上げられないくせに、ミロの挑発に屈服することを氷河のプライドは良しとしなかった。
 怒りのためか、屈辱のためか、単に精いっぱいの力を腕に込めているせいか、紅潮した顏をミロから背けて、氷河はカノンの拘束から逃れようともがく。
 いつもの調子でからかうミロはともかく、カノンがどうして未だに氷河の上からどこうとしてくれないのかわからずに、混乱で正常な思考が働かない。

 氷河の混乱を見透かしたかのようにミロがカノンの肩を抱くように腕をまわし、肩越しに氷河をのぞき込む。
「強情だな、君は。カノンが途中でやめるだろうとか期待してるなら無駄だぞ」
 氷河に、というより、むしろカノンに、だよな?と言いたげにミロはそう言った。

「氷河、もう一度だけ聞いてやろう。俺の助けはいらないのか?」
「……あ、あなたになんか、借りは作らないっ!」
 氷河の答えに、ミロは満足げな笑みを浮かべた。
「それでこそ氷河だ」
 上気した氷河の頬をするりと撫でて離れたミロは、ソファの一角へゆったりと座り足を組んだ。
「助けはいらないということだから、俺はゆっくり見学させてもらうとしよう」

 氷河に向かって笑みを浮かべながら、ミロは、微かな唇の動きだけでカノンに命じた。
『続けろ』

 成り行きを見守っていたカノンは、憐れむように氷河を見下ろした。
「お高いプライドは結構だが、あまり賢い選択とは言えないな。自分で排除できぬ以上、ミロにすがるしかないのがわからんのか」
 一見もっともな指摘に見えて、だが、排除も何も、そんな風に諭すカノンこそがこのわけのわからない状況の原因だと思うと、素直に聞けるものでもない。氷河はきっと瞳の力を強くすることだけで抵抗を続ける。

 唇を噛んで、顏を背け、頑なに拒絶の意志を見せる氷河に、カノンはしばらくの間、観察するように視線を落としていたが、やがて、ふ、と息を吐いた。
「なるほど……どこまでもつまらないプライドが大事か。なら、悪く思うな」
 氷河の両腕を押さえつけているカノンの力が強くなり、再び影が落ちたかと思うと、中断されていた愛撫が再開され、氷河の身体が跳ねた。
「……っや……めっ……!」
 まさかこの状況で、本当にそれが再開されることになるとは思わず、混乱と屈辱で氷河は激しく暴れた。だが、カノンの鍛え抜かれた体躯は必死の抵抗を楽しむ余裕すら見せて、それを苦も無く跳ね除ける。

 カノンは氷河の耳朶を口に含んで、鼓膜に直接声を届けるように囁く。
「そんなふうに暴れてもミロの奴を楽しませるだけだぞ」
 深みのある低音がビリビリと鼓膜を震わせることに、氷河はあっと息を呑み、突っ張らせていた腕の力が思わず緩んだ。ミロに聞こえない様に助け船を出したつもりが、艶めいた声をあげられてカノンは苦笑する。
「敏感だな。耳が感じるのか?」
 今度は意図して、柔らかな耳朶を食むようにそう言うと、やはり氷河は身体を震わせた。

 カノンの唇に舌に、簡単に反応を返してしまう幼さはいっそ憐れなほどだが、だが、同時に男の欲を刺激する。
「ん……っ!」
 唇から零れる喘ぎに交じる色に自分でも気づいているのだろう、氷河は血が滲むほどきつく唇を噛んで声を漏らさぬよう耐えている。そんなふうにされるとギャラリーの手前、余計に声をあげさせたくなる。カノンは跳ねる躰を押さえ込みながら、湿った音を響かせて執拗に耳を嬲った。
「……ふ……ぁっ……っ」

 感じまい、感じまいとすると、余計に意識がそこへ集中する。
 抵抗する意識と乖離して、勝手に反応を返す己の浅ましい身体に嫌悪し、だが、もたらされる抑えきれない悦楽が次第にじわじわと意識にまで侵食しはじめて、きつく閉じられた氷河の眦に涙が滲む。
 カノンはそのまま首筋、鎖骨と、氷河の声が漏れる箇所を唇で追っていく。

 カノンは、途中まで脱がせかかっていたシャツのボタンをいくつか外し、まだ抵抗を諦めていない腕を拘束するように二の腕のところまで引き下げた。
「……っ!」
 冷たい空気に直接肌を曝されて逃げる身体を押さえつけ、あらわになった薄い胸に唇を這わせ、反対側の胸をゆっくりと円を描くように撫でまわすと、カノンの掌の下で、次第に引っ掛かりが生まれ始めた。
 ぷるんと小さく存在を主張する薄紅色の突起を指の間に挟んで摘み上げると、氷河は唇を戦慄かせ、バタバタとむやみやたらに空を蹴っていた足が何かに耐えるようにソファの座面に突っ張るように伸ばされる。
 色づき始めた蕾を舌で弾くように舐め、柔らかく歯を立ててやると、氷河は色素の薄い喉を曝け出して拒絶とも愉悦ともとれる引き攣れた声をあげた。
「お前は咬まれるのが好きなのだな」
「ち……が……っ!……っぁ!」
 違う、と首を振りながら、カノンが歯を立てるたびに、全身を震わせて吐息を漏らし、抑えきれなかった己の声を憎むように唇を噛む氷河をミロは目を細めて見つめた。

「カノン、痕はつけるな。後で面倒だ」
 その声に存在を思い出したのか、氷河の視線が向けられた。既に焦点を失いかけて潤んだ瞳が何かを訴えていて、ミロは、唇の端に笑みを浮かべた。
「言う気になったのか?助けて、と」
 氷河の眉が歪められて、首が左右に振られる。自力でこの状況から抜け出せないことは明白なのに、意地でもそう言おうとしない気位の高さに、カノンとミロはチラリと目を合わせて苦笑した。
「だったら何を……ああ、誘ってるのか?」
 挑発するようなミロの言葉にも、氷河は答えず、また睨むように視線を向けた。

 やがて、絶え間なくもたらされる愛撫に堪えきれず零す甘い吐息の合間に、みるな、と氷河の唇が動いた。
 まるで問題はそれだけだ、と言わんばかりの抗議に思わずミロは見られなきゃいいのか、と吹き出す。
 つられて笑みを浮かべたカノンは、氷河の下肢に手をやった。カノンの巧みな愛撫に、布地越しでもはっきりわかるほどそこは硬く張りつめている。
「こんなに感じてるのに、か?お前は見られている方がいいのだろう」
 心の中まで犯されるような言葉に氷河の頬が屈辱で紅潮する。が、次の瞬間、カノンに下着ごとズボンを足から引き抜かれ、あっと今度は羞恥で頬を染めた。
「や、やめろっ……!」
「ほら。ミロにもよく見せてやれ」

 カノンに内腿を広げられ、遮るものの無くなった中心を二人の視線に晒されるという辱めを氷河は目をきつく閉じて耐えた。
 自分で見ずとも、そこがどんなふうになっているかは身体の感覚からは明らかだ。粘りのある液がとろりと腹に落ちる感覚に、氷河の眦からも涙が零れた。

 ミロがゆっくりと立ち上がって、氷河に近づき、身を折って、その涙を掬い取るように舌を這わせる。
「まったく……君は本当に可愛いなあ。見られてそんなに感じたのか。それとも無理矢理というのに興奮した?」
 顏を背けて、ミロから逃れようとする氷河の顎を捉えて、ミロは唇を合わせた。
 固く閉じられた唇の合わせ目にチロチロと舌を這わせる。
 下の方でカノンが白く柔らかな氷河の内腿をきつく吸い上げると、閉じられた唇からあっと声が漏れ、その隙にミロは舌をするりと口腔へ侵入させた。
 震えて喘ぐ舌を絡め取り、ちゅと吸ってやると、重ね合わせた唇の間から呻きにも似た吐息が漏れる。触れ合わせた粘膜が、きつく噛んでいた氷河の唇から血の味を捉える。飢えた肉食獣が血で興奮するように、ミロの欲も大きく煽られ、口腔を貪る舌は次第に激しくなっていった。

 柔らかい皮膚の上を生き物のように動き回っていたカノンの舌が、氷河の中心をチロリと舐めた。
 氷河の身体が大きくビクリと竦む。
 過剰ともいえるその反応に、ミロは氷河の両頬を手で挟んで瞳をのぞき込んで笑った。
「坊やは期待していると見える。舐められるのは好きか?」
 氷河はふるふると小刻みに顔を振って拒絶の意を示していたが、カノンが大きく開かせた足の中心に顔を埋めると、ああ、と喘いでその拒絶も途切れた。
「あ……あっ……んあ!」
「咬まれるのも好きなんだったな?」
 ミロが耳をかぷりと甘噛みしてやると、返事の代わりにまた声が漏れた。

 未成熟な若い性が二人の巧みな追い上げに抗えるはずもなく、氷河の意識は次第にぼんやりと霞がかり、解放の欲に支配されてゆく。
「やめ…ろ……」
 拒絶の言葉に抑えようもなく艶が滲む。
 柔らかなブロンドを振り乱して押し寄せる快楽の波に耐え、腰を中心に全身に広がる疼きを努めて意識の外へ押し出そうと、氷河は必死で身を捩った。
 二の腕に引っかかったままのシャツがそのたびに拘束を強めるように腕の肉へ食い込んで行く。
 その動きを目で追ったミロが、氷河の上体を起こして、腕からシャツを引き抜いてやった。
 ようやく自由に動かせるようになった腕で、氷河はカノンの髪を掴んで突っ張る。
 ミロは氷河の背を抱くように自分の身体を差し入れ、カノンの髪を掴んでいる氷河の手を引きはがし、抵抗を奪うようにそれを後ろ手にひとまとめにすると、自分の片手で抑え込んだ。

 直接の刺激を得てどうしようもなく高まる身体そのものを脱ぎ捨てようとするかのように、頑なに逃れようとする氷河を、ミロは、どこか優しくあやすように、背後から抱き締めて柔らかく拘束する。
 氷河の視界から消えたミロは、この状況に似つかわしくない優しげな微笑を浮かべて、その髪に鼻先をうずめた。
 うなじにキスを落としながら、空いた手を前にまわして固く尖った胸の先端をきゅ、と摘み上げると氷河は堪らず喘いで甘い声をあげた。

 ゆっくりと上下させていたカノンの頭が激しさを増すと、氷河は身も世もなくよがり声をあげた。
「あ、あ、いや、いやっ、やめっ……ぁっ!」
 抗いがたい絶頂感に、氷河の指先がすがるものを探して緩くミロの指を掴む。
「ほら。これでも掴め」
 ミロが氷河の指に自分の長い指を絡ませてやると、それに応えるように氷河の指がぎゅっと握られた。ミロがもう一度耳をかぷりと噛むと同時に、氷河の身体がガクガクと震え、くったりと汗ばんだ肌をミロに預けてきた。

 ゆっくりと顔を上げたカノンが、見せつけるように舌を出して、早かったな、と、とろりと手のひらに蜜を吐き出した。
「くくっ。お前の口、相当気にいったみたいだな」
 すぐ耳元で紡がれるミロの声も届かないかのように、氷河は放心状態で荒く息をついている。

 カノンはチラリと視線を上げたが、いたぶるような声を出したミロはしかし、裏腹に氷河の頬を愛おしげに撫で、汗ばんだ髪にキスを落として、カノンの視線には気づかないようだった。
 氷河の意識がしっかりしている時にそういう優しい顔を見せてやればいいのに、人のもの相手にはプライドが邪魔するのか、それはどうもできないらしい。
 息をつきながら、汗の滲む手でミロの指を強く掴んでいる氷河は、庇護を求めて甘えているようにも見え、カノンはおや、と意外に思った。
 ミロが自分で思っているよりずっとこの少年は彼に心を許しているのかもしれない。あんな風にミロが挑発さえしなければ、素直に懐くのではないかという気がとてもした。
 ほんの少し脅してやって、ミロの加虐心が少々満足すれば解放してやろうと思っていたが、二人の間に横たわる微妙な感情が透けて見え、カノンの中に昏い感情が凝る。

 目の前に下りる、情事後の恋人同士のような甘い空気を断ち切るように、カノンは、とりわけ即物的に、氷河の淡い叢の奥へ蜜で濡れた指を忍ばせた。
 自分でそれと意識しないまま、僅かに乱暴になる。
「こっちも知ってるんだろう」
「……っ!う、あっ!」
 入り口をなぞるように緩々と指先だけ抜き挿しすれば、カノンの問いを肯定するように嫌悪だけとは言えない氷河の声が漏れた。

 その肯定の喘ぎに、今、腕に抱く身体が人のものなのだ、ということを意識させられ、ミロの眉が不機嫌に顰められる。
 自嘲的に、ふん、と鼻を鳴らしたミロは、愛おしげに抱いていた氷河の身体を、気遣いなく手荒に拘束し直し、歪んだ笑みを浮かべて耳元で囁いた。
「坊やはこんなものじゃ満足できないだろう?」
 ミロの言葉に呼応するように、カノンの指が蜜で濡れた叢の奥にぬぷりと根元まで挿し込まれた。
「───っ」
 ミロが肩を上から押さえつけるように氷河の躰を抱いたため、逃れることも敵わず、一気に深いところまで異物の侵入を許し、氷河は瞳をきつく閉じて蹂躙に耐えた。

 くち、と中を掻き回す音が、氷河の掠れた吐息の合間に響く。
 ミロは氷河のうなじを舌でつ、と舐めながら、両手は胸の蕾を弄って時折爪で挫く。氷河の足元ではカノンが後孔をくちくちと掻き回しながら、氷河の雄を緩々と扱く。
 全身にもたらされる快楽に、氷河の神経は焼き切れそうなほど敏感に反応し、ひっきりなしに甘い声をあげた。

 カノンの指が奥所を擦り上げると、氷河の身体は戦慄いて、腕を後ろにまわしてミロの髪を掴んで引いた。
「どうした。欲しいのか、坊や」
 氷河の頭が、かろうじて、横に振られる。だが、その動きと矛盾して、指先はますますミロの髪を強く絡めて引く。
 ミロは喉の奥で笑いながら氷河の耳元で囁いた。
「いけないコだな、氷河。『先生』以外におねだりするとは」
 途端に、氷河の中におさめているカノンの指がきゅうと締め付けられた。

 カノンはその指を絶えず掻き回しながら、ミロと逆の耳に言葉でも犯す。
「やはりお前は淫らだな。カミュを裏切ることを想像しただけでこんなに締め付けてくるとは」
 否定か拒絶か、荒い息の間に氷河が何度も頭を振って、涙を散らした。
 理性では拒絶しながらも、与えられる物理的な刺激に勝手に反応してしまう未熟な身体を持て余して、切なく喘ぐ少年の痴態に、見下ろす男二人の欲も煽られて昂ぶる。

「君にはお仕置きが必要だ」
 そう囁くミロ自身の声も、余裕なく掠れている。

 カノンに、唇の動きで、どけよ、と言うミロの表情は、まるで子供が玩具の優先権を主張しているようでカノンは苦笑した。
 好きにしろ、とカノンがゆっくりと指を引き抜くと、氷河の肉が阻むように蠕動して震えた。

 ミロは力の抜けた氷河の身体をカノンに預け、体勢を整えて腰かけなおし、着衣の前を緩めると、再び氷河の身体を受け取った。
 氷河の足を大きく開かせて、背後から抱き締めるように、猛った自分の上へゆっくりとその腰を下ろしてゆく。
「あ……や……っ」
 もたらされる快楽の捌け口を求めて身を震わせていた氷河が、後孔に感じた熱さに、一瞬理性を取戻し、逃れようと大きな抵抗を返す。
「嫌?ここはそう言ってはいない」
 氷河の身体を絡め取るようにまわされたミロの手が、硬く立ち上がって雫を零す氷河の雄を捕える。
 違う、と首を振り続ける氷河の腰を掴んで、ミロは構わず、ぐ、と押し付けた。
 慣らされたとはいえ、狭い隘路が猛った楔を呑みこむのはかなりの苦痛を伴う。氷河の顏が歪められ、ミロもきつい締め付けに眉を顰めた。

 感情のない瞳でそれを見ていたカノンは、浅い呼吸を返している氷河の肩を上から押さえつけ、一息にその身を深く沈めさせた。
「う、ああっ……!」
 明らかに快楽とは言えない引き攣れた悲鳴を漏らす氷河の背後で、ミロは視線で抗議し、カノンはそれを肩をすくめて受け流した。
 玉のような汗を額に浮かべて、苦悶の表情を浮かべている氷河のうなじへキスを落としながら、ミロはゆっくりと慣らすように氷河の身体を揺さぶる。

 大きく割り開いた両腿を掴んで揺する、その身体の前へカノンは膝をついた。
 氷河の足の間に顔を埋め、再びそれを口に含む。
「……アァッ……!」
 今度は打って変わって、艶のある声が氷河の唇から洩れた。ミロが揺さぶる動きに合わせて、カノンが舌をつかってやると、氷河は次々に甘い声を上げた。
 氷河が声を上げるたびに、ミロの眉が、きつい締め付けに耐えるように顰められる様子をカノンは満足げに見上げる。
 まるで二人を同時に犯しているかのような光景を楽しむように、カノンは緩急をつけて氷河を、氷河を通じてミロを追い上げていった。

「ぁ…っ……んあっ…あ!…ん!…」
 前からも後ろからももたらされる、気が狂いそうなほどの強い快感に、氷河の唇は閉じられることなく、ひっきりなしに嬌声を紡ぎ、唇の端から唾液が漏れる。
 カノンは巧みに氷河の性を翻弄し、追い詰めては、達する寸前で梯子を外す。氷河の透明な瞳が助けを求めて薄く開かれる。
「イかせて欲しいか?ならばミロに頼むんだな」
 カノンは氷河を最後まで解放してやらないまま、突然に口を離した。
 アー…と獣じみた声が氷河の口から洩れる。

 カノンは立ち上がり、己の重々しい昂ぶりを突出し、汗ばんだ金の髪を掴むとしどけなく開かれた唇をこじ開けてそれを突っ込んだ。
「───っ……」
 嬌声がくぐもったものに変わる。
 喉奥深くまで塞がれて、何度かこほこほと咽て、氷河は涙を滲ませた。
 最初から氷河の積極的な愛撫などは期待せず、カノンは汗に濡れた金の前髪を掴んで、自ら腰を緩く前後に揺すった。
「……っ……んぅっ……」
 苦しげな呻きの合間に、ミロの突き上げに応える、鼻に抜ける甘い吐息が混ざる。淫靡な水音と、複数の荒い息づかい、そして肉を打つ音が混じりあい、異常な高揚感が三人を包んだ。

「君はいやらしいな。ものすごくきゅうきゅうと締め付けてくる。ああ、ほらまた」
 ミロの言葉を証明するかのように氷河の身体がふるりと震える。
 ギチギチとミロの楔をきつく締め付けていた若い肉は、ミロが奥所を擦り上げた瞬間、急速に熱を持って解れ、奥へ奥へと誘い込むように痙攣を繰り返した。
「ふふ。どうして欲しい?」
 氷河から答えはない。
 だが、指先がほんの少しピクリと動く。
 ミロは故意にそこを外して、浅く緩慢な動きで氷河を揺さぶる。

 カノンをただ咥えていただけの氷河の舌が、稚拙な愛撫を返し始めた。必死に舌を絡めて、いやらしげな水音をたてて強請るように舐めつづける。飲みこみきれない唾液が顎をつたっておりて胸を濡らした。

 責め苦を与えているのは自分だというのに、解放を求めてカノンに懇願を返す姿にミロの熱が余裕なく跳ね上がる。ミロは氷河の腰を掴むと、意識を自分に戻すように深く激しく突き上げ始めた。
「ああっ……あ─っ!」
 思わず、氷河はカノンの猛りを口から吐き出して、背を反らせて悲鳴をあげた。
 だが、次の瞬間には容赦なく顎を捉えられて再び口腔を犯される。
「……んっ……んんんっ……」
 声をあげることも叶わないまま、背を駆け上がるような強い疼きに、氷河の身体がびくびくと跳ね、ミロを食いちぎらんばかりにきつく締め付けながら、白濁を散らした。
 引き絞られるような強い収縮に、ミロも氷河の中へ精を注いで果てた。


 氷河の髪に顔を埋めて、気怠い余韻に浸っているミロの額をカノンは小突く。
 替われ。
 指先を曲げてそう言うと、一瞬彼は不満げな顔を見せたが、一つ息をつくと、大人しく頷いて、抱えた氷河の身体をゆっくりと離した。
「んっ…あ…」
 口からも後孔からも、同時にずるりと楔を引き抜かれ、氷河は物欲しげな甘い声を上げた。

 カノンは氷河の身体を裏返し、床へと下ろした。
 ミロも同じように床へ下り、胡坐をかくように座る。
「坊やがきれいにしてくれ」
 ミロは氷河の頭を掴んで、白濁に濡れた自分の雄芯にそれを押し付けた。
 半ば意識も理性も失った氷河は言われるがままに、それを口に含んで舌を這わせる。

 カノンはその氷河の腰を掴んで高く掲げさせると、濡れた後孔に己の切っ先をあてがい、一気に腰を進めた。
「あああっ!」
 まだ、達した余韻で敏感にひくつくそこを再び熱塊で押し広げられて、氷河の背がふるふると震えた。
 髪を振ってよがり狂う氷河の頭をミロの手が強い力で押さえつける。
「ん!んん!んぅ!」
 氷河の口内でミロのものが再び熱を帯び、昂ぶり始める。
 稚拙な氷河の愛撫を助けるように、ミロの手が氷河の髪を掴んで上下に揺さぶった。
 もはや、その動きにさえ氷河は甘い疼きを感じることを押さえられず、上からも下からももたらされる悦楽に翻弄され、意識が白く拡散し始めた。

 ミロの精で濡れた後孔を犯すのは、カノンの中に倒錯的な昂ぶりをもたらした。
 先に注ぎ込まれた精がカノンの透明な淫液と混じり、ぐちゅぐちゅと卑猥な水音をたてて氷河の白い腿を濡らす。

 カノンは激しく腰を掬い上げるように突き入れながら、氷河の愛撫に満足げに熱い吐息を返しているミロの髪を引いた。
 そして上体を倒すようにして噛みつくようにその唇に口づける。
 この狂乱のような状態の中で、ミロの方も熱にうかされたようにカノンに応え、二人は激しく舌を絡め合った。
 やがて、限界を迎えた氷河の内壁がきつく収縮を繰り返し、カノンはその奥へ精を吐き出し、ミロもまた口内に二度目の精を放って果てた。


**


「……どうするつもりだ、これ」
「悪いのはお前だろう」
 完全に意識を失ってくったりと伸びた氷河の身体を抱きかかえたミロと、さっさと身づくろいを済ませてくつろいでいるカノンが堂々巡りの議論を繰り返している。
 部屋にはまだ濃厚に牡の匂いが漂い、ミロの腕の中の氷河は汗や精に濡れ、情事の痕を色濃く残している。
「痕などつけずとも、立てなくしたら一緒だと何故気づかんのだ」
「俺のせいか?言っておくが始めたのはお前だからな」
「俺は途中でやめる気だった。勝手に進めたのはお前だ」
「止めなかったお前が悪い」
「俺の制止など聞くのか?お前が」
「……お前だって楽しんだくせに」
「男だからな」
 いくら責任の所在を押し付け合ったところで、目の前の獲物に欲が負けたことには二人とも変わりない。

 ミロは氷河の身体を抱きかかえ直した。すっかり汗に濡れた髪をほぐすように指で櫛を入れてやる。
「……とてもカミュには見せられんな」
「激怒ですめばいいが」
「氷河を連れて逃げてみるか」
「逃げ切れるならやってみればいい」
「お前がカミュを足止めしててくれれば逃げて見せるさ」
「俺が協力すると思うか?」
「するだろう。だってお前も同罪だ」
「俺は元々カミュに殺される覚悟はあるからな。お前に協力するより白旗を上げる方が楽だ」
「……お前は屈折している」
「お前こそ。こんな手段で手に入れて心まで手に入るのか?」
「だから始めたのはお前だというに!帰ってきたらそういうことになってたんだから悪いのはお前だろうが!」
 堂々巡りの二人の議論は、だが、不意に途切れた。

 宮の温度が急激に下がるのを感じる。
 二人は顔を見合わせた。

 足音はしない。
 だが、確実に冷気が近づいてくる。

 二人の凝視の中、ドアノブが急速に霜づいて白く色を変えてゆく。

「……カ、カミュ……」

 ドアノブがくるりと回った。


(fin)
(2012.9.4UP)