『星の詩』のおまけ作品
カノミロの裏側にあるカミュ氷
性表現あります。18歳未満の方、閲覧をご遠慮ください。
◆罪と罰 ④◆
宝瓶宮まで辿り着くと、氷河は観念したのだろう。
まだ濡れていた氷河の髪をカミュが乾かしてやっている間も大人しくカミュの膝の上へおさまっていた。
完全に乾いた髪を指で梳かしてやりながら、氷河の身体をそっと抱き締める。
チラリと首元からのぞく鎖骨。
ああ、これか……。
カミュが確認するようにそっと襟を広げると、氷河は跳ねるように体を竦ませて、慌てて身を捩った。
「見せてみなさい」
「いや、でも……」
「でも、はナシだ。大丈夫。カノンに怒ったりはしないから。……もちろんお前のことも怒ってない」
それでも、困ったようにシャツを掴んでいる氷河の指をゆっくりと解いて、その下のボタンを二つ三つ外し、白い肌を露わにさせる。
確かに薄く紅い徴がひとつ残されている。その上の爪で引っ掻いたような痕は氷河だろう。そちらの方は痛々しい。
さて。
これをどうとらえるか。
薄く残る痕は、どうも意図的に残されたものではないように見える。
行為をどこまで進められたのかは知らないが(考えたら血が沸騰しそうなのでそれは考えないことにする)、注意を払っていたつもりで「つい」加減を失って残ってしまったと考えるのが妥当なところか。
意図的に残されたのだとしたら、これほどわかりやすく喧嘩を売られたとわかることなどないほどだが……カノンが今更わたしを怒らせる理由がわからない。
「氷河……カノンをどうして欲しい」
不穏な師の言葉に、氷河は思わずギョッとして、慌ててカノンをかばう。
「カノンは全然本気ではありませんでした。俺も平気でしたし……」
「本気でなければ何をしても許されるのか?平気だったと言うなら、なぜわたしのところにすぐ来ない」
「……そ、それは……」
狼狽えて、視線を彷徨わせる氷河を温度のない双眸で見つめていたカミュは、やがてふっと表情を緩めて、氷河の頬をゆっくりと撫でた。
「大丈夫、お前の気持ちはわかっている。今のは冗談だ。カノンが本気ではなかったというのはわたしも同意したいところだな。多分……まあ……」
そもそもの問題はミロにあるのだろう。
頭の痛いことだが。
だが、その二人の問題はこの際、棚上げだ。今はまず、目の前のこの愛しい存在だ。
「氷河。お前に謝っておこう」
「え……?」
「カノンのことは……わたしの不徳の致すところだ。アイザックもお前も誤解しているようだが、わたしはカノンに対して何も思うことなどない」
シュラ、そんなことまでしゃべっちゃったのか、と少し膨れっ面になりかけた氷河の頬にカミュは唇を押し当てた。
「シュラは悪くない。いずれ私たちはきちんと話をすべきだった。アイザックが海界にいるのはすべてわたしの責任だが……」
氷河が違います、俺の、と声をあげようとするのをカミュは口づけで塞ぐ。
そして柔らかく微笑んで氷河の身体をしっかりと抱いた。
「お前が責任を感じていることは知っている。だが、それならなおさら責めを負うべきはわたしだ。全てはわたしの管理下で起こったことだ。お前が自分を責めるなら、それも含めてわたしの落ち度だ」
「……カミュ……」
「今度、アイザックと三人で話をしよう。いつまでも自分を責めているわたし達の姿こそがアイザックを悩ませているかもしれない。アレも優しい子だから」
「はい……」
「正直、カノンに対しては少し嫉妬もあるのだ。アイザックを取られたような気がしてな。だから、つい、わたしの方も避けるような態度を取ってしまったのがいけなかった。お前に誤解させてしまったせいで、肝心な時に一人にさせて……すまなかった。本当に。もう何もお前は心配しなくていい。後はわたしとカノンの問題だ」
ああ、シュラの言うとおり。
カミュに何でも話しておけばよかった。
こうやって、穏やかな声で何も心配するな、と言われるのはどれだけ安心できることか。
氷河は、カミュの背中に腕をまわして胸にぎゅっと顏を押し付けた。
温かくて柔らかな鼓動が耳を打つ。
「先生……会いたくないって言ってごめんなさい。……本当はものすごく会いたかったです」
「ああ、わたしもだよ」
カミュの唇が氷河の上へ降ってくる。
口づけは、はじめはいたわるように優しく。
次第に、甘く、艶やかな色を滲ませて。
カミュは氷河の身体をそっとベッドへと横たえた。
口づけに上気した氷河の視線は、迷うように右へ左へ揺れている。カミュが抱いた細い躰は緊張して硬く強張っている。
まるで初めての頃に戻ったような初心な反応にカミュは苦笑した。
長い時間をかけて、素直に自分を求めるように教え込んできたというのにすっかり萎縮してしまっている。
過去のことはともかくとして、この件に関してだけはカノンに一言言わないわけにはいくまいな、と考えながら、カミュは氷河の頬を優しく撫でた。
「いやか?お前が嫌がることはわたしはしたくない」
「!!……違う、俺はカミュのことは好きです。あなたに触れられるのも好き、です。でも俺は……み、淫ら、だと。あなたでなくとも、誰に対しても、感じるから、だから、あなたに優しくしてもらう資格などない……」
予想外の告白にカミュは思わず目を見開いた。
そうか。
カノンがそう言ってお前を責めたのか。
無理矢理感じるように追い込んでおいて、ほらみろ感じたからお前は淫らだ、などと……
瞬時にカミュの全身の血の温度が上がる。後で、どころか今すぐ下の宮に下りて行きたい衝動を堪え、代わりにカミュは涙の滲んだ氷河の瞳にそっと口づけを落として、微笑んだ。
「それで何か問題があるのか?わたし以外の相手に感じたとして」
「えっ……?」
非難されるか、慰められるにしても、シュラのようにそれはただの体の反応なんだから気にするな、と言われると思っていたら、思いがけず、肯定するような言葉が降ってきて、氷河は混乱で目を何度か瞬かせた。
「でもそれは、いけないこと、です。俺が好きなのはカミュなのに……」
カミュは視線は氷河に定めたまま、その指を掴んで、一本ずつゆっくりと口づけを落としていく。
まだ、師の真意がわからないのに、その唇の動きは既に愛撫のようで。指先から生まれる甘い痺れが氷河には恐ろしい。
ほら。俺の躰はまたすぐに火を熾してしまう。
『とんだ淫乱』だから。
カミュは氷河の指を時折口に含みながら、やはり優しく笑った。
「淫らで何が悪い」
「……で、でも……」
「『誰に対しても、感じる』?……結構。だが、問題はお前の意志がどうなのか、だ。お前が触れていいと思うのはこのわたしだけだ。そうだな?」
もちろんです、とがくがくと氷河は頷く。
「俺のことを軽蔑しませんか……?」
「なぜしなければならない?そういうお前もわたしは愛しい」
それでも。
カミュ以外の指で感じたということは、氷河の中に消し去れない罪悪感を刻んでいる。
まだ迷うように四肢を強張らせている氷河に、お前はそういうところが強情だったな、とカミュは笑った。
「どうしても気になる、のなら。そうだな、わたしはお前に罰を与えよう」
「罰……?」
「そうだ。淫らなお前にふさわしい罰を」
カミュの瞳はいたずらっぽく揺れている。
それでも、優しく許されるよりは、罰を、と言われて、やっと氷河は安堵したように強張りを緩め、はい、と目を閉じた。
**
「カミュ…見、ないで……っ……」
「それでは罰にならない。可愛い顔をもっと見せてくれ」
「でも……ん……ふっ…」
氷河の切れ切れの懇願の声にくちゅくちゅという淫靡な水音が重なる。
氷河は膝立ちにさせた足を開き、自分の指で、透明な蜜を垂らす自身をゆるゆると扱く。カミュは、半身を起こしたまま、その痴態を目を細めて愛おしげに眺め、時折、腕を伸ばして氷河の頬や肩をゆっくりと撫でる。
ともすれば、氷河の両膝は、カミュの視線から逃れるように閉じられようとしたが、そのたびにカミュは耳元で叱咤した。
「隠してはだめだ。お前がどんなふうにするのが好きなのかわたしによく見せてくれ」
『今日は一人でしてもらおうか。わたしからはお前に触れないから』
カミュの与えた甘い責め苦は、氷河にとっては確かに罰とも言えるものだった。
二人で高まるのですら未だに恥ずかしい、と感じる程度には不慣れである行為なのに、自分一人だけ、(それも自分自身の愛撫で)高まる様子をじっと見つめられるのはあまりにも耐え難い。
カミュの視線が、氷河の肌の上を撫でて行くたびに体内に熱が滞っていく。
触れない、と言ったカミュはしかし、時折、そっと氷河の身体を撫で擦る。全く触れられないより、それはずっとずっともどかしく、氷河の熱を上げさせた。
触れて欲しい。
こんな、優しく、あやすような触れ方じゃなくて。
カミュの指で感じたい。
耐え難い恥辱の時間を少しでも早く終わらそうと、氷河は必死に極みを求めて指を滑らせる。
だが、やはり、カミュに見られている、という羞恥と、淫らだと思われたくない、という自制が勝って、なかなかそれは訪れない。いたずらに長引く責め苦に、氷河は耐えきれずにカミュに向かってふるふると首を振る。
それの意味するところなど、とっくに承知だったが、カミュはただ密やかに笑って氷河の頬を撫でた。
氷河はカミュの意地悪な指先に身体を震わせて耐える。
ほんのり朱に染まった白い肌には汗が滲み、カミュの方を助けを求めて見上げる瞳は熱く潤んでいる。
他の誰かから命じられたなら、絶対に応じないに違いないこの羞恥を伴う行為を、カミュの言葉であれば従順に受け入れて見せる氷河の姿態はカミュを満足させ、昂ぶらせた。
お前はわたしのもの。
それさえ揺るがぬことがわかっていれば何ものも二人の関係を脅かすことはない。
荒い息の合間に、駄目です、無理です、と泣き言を上げる氷河の額にカミュは口づけをする。
「もう音を上げるのか?」
普段のカミュであれば、氷河が泣き出す前に優しく笑って、仕方ない子だな、と許してくれるのに、今日はなかなか許してくれず、知れず、氷河の眦から一滴、涙が零れる。
「できません……意地悪です、カミュ……」
罰だからな、と笑ってカミュは氷河の耳朶をそっと口に含んだ。
氷河の身体が期待で打ち震える。
だが、カミュはちゅ、と水音だけを残してゆっくりと離れた。ああ、と氷河は切なげな声を上げて、また涙を零す。
「意地悪なわたしは嫌いか?」
カミュの問いに氷河は一旦は頷き、それからすぐに首を振った。
「どんなカミュでも好きです……」
カミュは健気な氷河の答えを目を細めて聞き、再び氷河の柔らかな耳朶に唇を寄せる。
「わたしも同じだ、氷河。お前がどれだけ淫らでも関係はない」
甘く低い低音が直接鼓膜を震わせるように届けられ、氷河の背を電流が駆け抜けるような疼きが走った。さらりと氷河の肌に流れる絹糸のようなカミュの髪ですら、氷河の疼きを強くする。
だが、カミュはまたゆっくりと氷河から離れていく。
氷河の手がカミュの腕にすがってそれを止めた。
「や……カミュ、そこ……咬んで…」
思わず漏れた氷河の欲求に、カミュはくすくすと笑って氷河の背を撫でる。
「自分でする約束だろう。ほら、ここも……お前の感じるところだ。自分で触ってごらん」
氷河の手を取って、胸の突起へとそれを誘導する。
カミュに言われるままに、自分の指先で押しつぶすようにそれを刺激しながら、氷河はカミュを潤んだ瞳で見上げた。
「でも、耳は自分で咬めません、カミュ」
言った本人は困りきって大真面目に言った台詞だが、カミュは思わず吹き出した。可愛いおねだりに少しだけ負けてやることにして、再び柔らかな耳朶に唇を寄せる。
「そんなに咬まれるのが好きなのか?」
再び、耳元で、艶のある低音で囁かれて、ビリビリと鼓膜が震え、氷河の肌が粟立つ。カミュの歯が柔らかな肉を挟み、舌で輪郭をなぞると、氷河は背をのけぞらせて甘い声をあげた。
「もっと……」
求めに応じて、耳朶を甘噛みし、そのまま唇を首筋へ寄せて、滑らかな肌を吸い、鎖骨へと舌をすべらせる。カミュは薄く残る忌々しい痕の上で一瞬止まり、上書きするように強く吸い上げた。
「ああっ……!」
氷河の背がしなり、カミュの首にすがるように腕が回される。
カミュはその腕をとって、指を掴むと、自分の口に含んだ。細い指をたっぷりと濡らし、氷河の秘所へそれを導く。
そんなところまで、と許しを乞うて泣き顔を見せる氷河に、カミュは瞳の強さだけで、さあ、とその先を命じる。
氷河が深く息をついて、おずおずと、濡れた指を自分の狭間へ侵入させる。自分で触れたことなどない秘所は、固く閉ざされていて、とてもそれ以上進めそうにない。
「む、無理です……」
「では、今日はここまで」
まるで講義はこれで終わり、のように至極淡々と突き放されて、慌てて氷河は首を振った。
だって、まだ。
カミュと一つになりたい。
氷河はゆっくりと指を襞の間に埋めていった。自身の茎から滴り落ちた雫がその進みを助ける。
「……あ……あ……んあ……っ!」
「入ったか?」
震えるように頷いた氷河の唇に、いいこだ、と口づけを落としてやると、氷河は甘えるように体を寄せてきた。
無理だ、と怯んだくせに、一度おさめてしまうと、経験のある身体はそこから甘い疼きを次々に生んだ。カミュが見ている前で、と羞恥に身を捩りながらも、氷河はじわじわと痺れるような快感をおいかけるように、くちゅくちゅと掻き回すように指を動かし続ける。
痛いほど張りつめた先端から零れた蜜が根元の叢をしっとりと濡らし、さらにその後ろへまで伝い下りて水音を響かせた。
「あ、あっ……ああ……っ」
氷河の咽び泣くような声が次第に高くなるにつれて、卑猥な水音は激しくなっていく。
だが、やはりカミュの視線が気になって、最後まで達することができない。
まして、自分の拙い愛撫では。
中途半端に高まったまま、解放されることのない熱に、全身が打ち震え、意識が少しずつ白く遠くなりはじめる。
氷河は、カミュの胸に頭を擦り付けるようにして、助けて、と強請った。
カミュは目を細めて、氷河の髪をゆっくりと梳く。
そんな風にカミュに触れられるのは大好きなのだが、今はその優しい指が物足らない。濡れた指で掻き回している箇所が熱く発熱して、甘い痺れが細波のように指先にまで広がっていく。
指を増やし、もっと、もっとと腰を揺らすがもどかしさは増す一方で。
氷河は、カミュの唇に自分のそれを押し当てて、接吻を強請った。
「自分で、だろう?触れない約束だ」
ここまで来ても(自分は時折勝手に逸脱するくせに)頑なにルールを崩さないカミュを氷河は潤んだ瞳で睨んだ。
「カミュが俺に触れない、と言っただけで、俺からカミュに触れる分にはいいはずです」
考えたな、とカミュは笑って、よかろう、と唇を開いてやった。
氷河のベルベットのような温かな舌がカミュの舌を求めて挿し入れられる。拙い動きで、カミュの舌に自分のものを絡ませ、強く唇を吸って欲を誘う。
いつもほんのりと冷たいカミュの肌だが、その内部は驚くほど熱い。その熱を追いかけるように氷河は深く唇を合わせ続けた。
どれだけ口づけをかわしていても、カミュが自ら動いてくれないことに痺れを切らし、氷河は身体を下にずらして、カミュの肌を舌で辿って下りた。
氷河の痴態に、硬く反応しているカミュのものを、前をくつろげてさらけ出し、昂ぶりにそっと舌を這わせる。カミュも感じている、ということが嬉しく、氷河は味を確かめるように先端をぺろりと舐めた。
唇を開いて、ゆっくりと口に含めば、身体の奥がまるでそれを受け入れた時のようにじんわりと疼く。
喉奥深くまでいっぱいにほおばっても全てをおさめきれないその猛りは熱く脈打ち、口内にじわりと甘苦い蜜が滲む。飲み込みきれない唾液と蜜がまじりあったものが滴り落ちて、卑猥な音をたてている。
口内いっぱいに存在を主張するそれに、逃げ場のなくなった舌を巻きつかせて夢中で頭を振る氷河の髪を、カミュの指が、やや乱暴に掻き混ぜ、時に、押し付けるように頭を押さえつける。喉奥を塞がれて息苦しくて涙が滲むのに、そうされることはカミュが強く氷河を求めている証のようで、下肢に感じる疼きは強くなった。
一度も解放されずに滞留し続ける熱に耐え切れず、氷河は身体を起こした。
「……カミュ……」
熱く切ない吐息を漏らして、哀願するように、カミュの首に腕をまわして媚びた声を出す。カミュは笑って氷河の頬を撫で、濡れた唇を親指で拭うようになぞった。
だが、やはりその先を進めようとはしてくれない意地悪な情人に、氷河の中でついに熱を解放したい欲が勝った。
「カミュ、欲しいです……」
カミュの唇が、無音のまま、じぶんで、と形作る。
一瞬恨みがましい目を見せた氷河だったが、すっかり熱の上がった欲には勝てず、身を起こして、座ったカミュの上へゆっくりと跨った。
わずかの緊張と、ようやく、の期待に全身を震わせながら息を詰めて、カミュの雄へ手を添え、その上へ腰を落とす。
「……ん……はぁっ……ああっ……!」
いくら慣れた身体で、自ら望んだこととはいえども、やはりこの時だけは苦痛を感じる。ギチギチと肉襞を割って侵入する圧倒的な質量に、氷河の息があがる。
浅く短い呼吸で苦痛をのがす氷河に、カミュが白い双丘の肉を割り開くようにしてやると、自らの重みで氷河の身体は悲鳴に軋みながら熱い楔を呑みこんでいった。
「ん……あぅ…っ」
カミュの頭を胸へ抱くのを支えとして、氷河は自ら、馴染ませるようにゆっくりと腰を揺らす。苦痛は少しずつ遠ざかり、代わりにじわじわと快楽の波が寄せてくる。
カミュは目の前で揺れている、赤く尖った胸の突起を、舌先で弾くように舐めた。
「あっ…」
途端に氷河が身体を震わせてカミュの頭にぎゅっとしがみつく。
「氷河はこうされるのが好きだろう?」
どこか笑いを含んだ声でそう言われても、もう、氷河には抗う術もない。ほら、と見せつける様に差し出されたカミュの舌へ、自分の胸を押し付ける様にあてがい、体全体を揺らして、未だ与えてはもらえない愛撫を切なく求める。
「んあっ……あん……ああっ……!」
小刻みにゆらゆらと腰を揺らしていた氷河だったが、次第に次々に生まれる甘い疼きに四肢の隅々まで支配され、身体を支えていた足の力が抜け始める。
それなのに、疼きはあくまでも疼きでしかなく、極みは一向に訪れず、鈍く、長く続く、拷問のような中途半端な快楽に、氷河はもはや、自分で動くこともかなわず、汗ばんだ身体をくたりとカミュにもたれさせた。
焦点のぼやけた瞳から、次々に雫が零れ、唇から吐息とともにすすり泣くような声が漏れる。
「……も、う、ゆるして、カミュ……」
とろんと力の抜けた身体が、上気した泣き顔が、確かに限界を伝えていて、カミュは、いいこだ、氷河、と頬を撫で、指を顎にかけてその唇を捉えた。
「お前があまりに可愛いから、つい泣かせてしまったな。許せ」
優しい声で、今日はここまで、と解放されて、だが、氷河は解放を拒んでカミュの首を引き寄せる。
「違う……せん……せ……一緒に……たい。欲しい……」
とても淫らな求めを素直に乗せたその声はひどく甘く、だが、伏せられた睫毛に、淫らな自身への羞恥と自己嫌悪がわずかに現れていて、そのギャップがまた男の欲を煽る。
「そう、それでいい、氷河。わたしを求める時はいくら乱れてもいい」
氷河の身体を強く抱いて、耳元で囁く。
ありえないほど淫らな状況だというのに、そんな風に氷河を導く声はいつもの師の声で。
修行時代、誰より厳しく、めったなことでそれでいい、などと言ってくれることのなかった師がそう言う時は、真実そうなのだと氷河の心は知っている。本人の意識なきまま、背負いきれぬほど抱えこんでいた罪悪感は少しずつ薄れていく。
「カミュ、俺、今日は激しくされたい……もっと奥まで深く……」
「ふふ……いいとも」
切なく戦慄く氷河の唇にカミュは深い口づけを与え、細腰を掴むと、氷河の身体を跳ね上げるように突き上げた。
「んんっ……んあっ…!」
氷河が白い喉を曝け出して悲鳴のような善がり声を上げる。
おそるおそる身体を揺すっているにすぎかった拙い動きではなく、容赦なく最奥へと穿たれた楔が、痛いほどの強い疼きを氷河の中へ刻む。
快楽を快楽と感じられないほど、休む間もなく容赦なくもたらされる激しい突き上げに、焦らされ続けた躰はあっという間に頂へ押し上げられ、氷河は髪を振り乱して果てた。
白く意識をとばしかけている氷河の背をベッドへ押し付ける様に倒し、カミュは氷河の足首を掴むと、まだ絶頂の余韻にきゅうきゅうと締め付ける内壁を熱塊で深く穿つ。
「───っ!」
敏感にひくつく箇所を、容赦なく責め立てられ、手放しかけていた意識が、強制的に引き戻されて氷河は声にならない悲鳴を上げた。
「っ……カ、カミュ……っ!」
気が狂いそうなほどの絶頂感が続き、氷河は身体を震わせて泣きながら懇願する。
「こわい……何か、俺……ああ……っ」
譫言のように意味をなさない言葉を繰り返しながら、氷河は強くカミュにすがりついた。
狂おしいほどの責め苦を与えているのは目の前の男だというのに、美しく均整のとれた体躯に守られるように抱きしめられ、安堵し、すがるものを得たことで、再び、意識が遠のきはじめる。
だが、氷河、と呼ぶ声が、常にない熱を帯びていて、そのことにこの上ない悦びを感じて、遠のく意識と反対に、身の裡には温かいものが満ちた。