転生したカミュの師となる氷河のお話。
性表現(一氷)あります。18歳未満の方、閲覧をご遠慮ください。
◆第一部 ③◆
それから、カミュは宝瓶宮で訓練漬けの日々を送った。
午前中は養成場へ行き、ほかの聖闘士候補生とともに基礎を学ぶ。
悔しいことに、氷河が言った通り、結局、ミロとは一番の仲良しになった。
ほかに対等に組みうる候補生がなく、いつも組手の相手になっていたせいもあるが、全く対照的な性格をしているくせに、それともだから、なのか、意外にも馬が合ったせいだ。
直観的なミロと、理知的なカミュ。
大人も舌を巻くカミュの理屈っぽさも、ミロの動物的勘の前では役に立たない。
思考と行動が直結するミロの直情径行ぶりは、カミュの理論武装の前では形無しだ。
訓練をする上でも双方向に刺激を与える存在は、訓練を離れてからも気安く軽口を叩ける程度の友情のようなものを育ませたのだ。
氷河が、何故それを見抜いていたのかとても不思議だったが、今では、ミロが時々宝瓶宮に遊びに来ても、カミュはそれを喜んで迎え入れるまでになっている。
ただし、一番の仲良しであっても、ミロが氷河に甘える時は別だ。
そういう時は、俺の先生なのに、とやはり胸がざわざわする。
ミロが自分にはできないような甘え方(抱きついたり、我が儘を言ったり、だ)をすることも気に入らないのだが、氷河がそれを怒らないことに最も苛立ちを感じた。
養成場で会う、ほかの聖闘士達は上下関係や礼儀作法にとても厳しいのに、氷河は、ミロがどれだけ甘えても、少しも怒らず、むしろそれをどこか楽しんでいるような様子すら見せた。
氷河は、頭ごなしに叱るかわりに、いつも「君の本気がどれだけすごいか知っている。君が聖闘士になるのが早く見たい」というような、絶対の信頼を見せた。
ミロのようなタイプには頭ごなしに叱られるより効果があるのだろう。そう言われると、訓練を抜けて遊びに来ていても、急にそわそわし始め、「じゃ、本気出してすぐに聖闘士になってやるから!」と訓練に戻って行く。
人づき合いがあまり得意そうではない氷河が簡単にミロを操るのが不思議なのだが、そこに計算されたものは感じず、だからこそ、氷河がミロのことを特別によく知っているように思えてならない。ミロのことは好きだが、やはり先生を取られたような気がして胸のあたりがもやもやする。
だから、カミュは午後の時間が一番好きだった。
凍気を操ることができる、というのは、二人だけの特別な共通項だからだ。
しかし、今日はその特別な時間に邪魔が入った。宝瓶宮に客人が訪れたのである。
氷河、と控え目な声で呼ばれて顏を上げた師が少し驚いたような声を上げた。
「瞬!」
「最近、下までおりてこないから……久しぶりに顔を見にきたよ。この間会ったの、いつだか覚えてる?氷河」
「……そんなに長いこと会ってなかったかな」
「もう。氷河ったら覚えてないんだね。……星矢から聞いたよ。その子が、例の……?」
「ああ。……カミュ、こちらは乙女座バルゴの瞬だ。処女宮を護っている」
「はじめまして。カミュです」
カミュが頭を下げると、瞬は何ごとか言いたそうに氷河の顔を見た。氷河はぎこちない態度で瞬から視線を逸らしている。
カミュは敏感に二人の間の空気を察知し、機転を利かせて氷河に言った。
「先生、俺はあっちでさっきの続きをしていますね」
「あ、ああ……あとでわたしも行こう」
そう言って、カミュは氷河と瞬を部屋に残してドアを閉めた。
だが、気になることがあればとことんまで追究せねばおれない性質なのがカミュだ。
カミュは一度その場を離れ、しかし、足音を消して、再びそっと扉に近づき、聞き耳を立てる。中から二人の話し声が途切れ途切れに聞こえている。カミュは必死にその声を拾った。
「……名前まで一緒なんだね」
「ああ……」
「氷河、大丈夫なの。混乱しない?」
「正直、混乱はしている。だけど……充実している。弟子を取るのがこんなに楽しいものだとは思いもしなかった」
瞬はわざとらしく大きくため息をついた。
「弟子、ね。カミュじゃなくても同じことを言ったのかな」
「もちろんだ」
「だといいけど。氷河、あの子はカミュだけど『カミュ』じゃないんだよ。そこはちゃんと線を引いているよね?」
「……わかってるよ、言われなくても」
「そう?余計なおせっかいだけど、もし、混同しているならあの子にもかわいそうだから言っておかなくちゃと思って」
「大丈夫だよ、瞬。心配するな」
「うん。信じてるよ、氷河。ねえ、兄さんは何か言ってた?」
「……あ、あいつ、どうしてる?」
「呆れた。もしかして、会ってもいないの?カミュに没頭する気持ちもわかるけど、ちょっとひどくない?いくら氷河でも僕怒るよ?」
「そういうわけじゃ……一輝だって忙しいだろう。いないじゃないか、いつも」
「いるよ!真面目にずっと自分の宮にいるじゃない。兄さんは変わったよ。もう何年も前にね。それにも気づいていないの?……こんな大事なこと、人から聞かされるより、氷河の口から聞いた方がいいと思うけど」
「……ちゃんと、自分で言うつもりではいるんだ」
「先延ばしにしない方がいいよ。養成場に通い詰めてる珍しい『アクエリアス様』の姿はすっかり聖域で噂になってるから」
「そうなのか。……今日か、明日には行くようにする……多分」
「多分じゃだめ。僕に誓って」
会話が打ち切られそうな気配を感じて、カミュはまた慎重に扉の前からその場を離れた。
心臓が早鐘を打っている。
なんだろう、今の会話。
全てを明瞭に聞き取れはしなかったが、俺の話だったのは確かだ。
誰と名前が一緒なんだろう。氷河がよく似た人を知っている、と言ったそのひとだろうか。
それにその後の会話も。
瞬、という人の兄と氷河が会っていないことと自分に何か関係が……??
さっぱりわからない。
カミュがその場を離れて、数分もたたないうちに、瞬は扉をあけて出てきた。
「それじゃ、氷河、また」
「ああ」
氷河は瞬を見送って宮の出口までついて出て行く。カミュは横目で師の表情をそっと盗み見た。
あ、先生、ものすごく困ってる、とカミュは思った。
ほんの何週間か一緒に過ごしただけなのに、まるで以前からずっと知っていたかのように、氷河のことがなんでもわかるようになってきた。
今のは、葛藤して、答えを出しかねて、悩んでいる顔だった。
しかし、瞬を見送ってから戻ってきた氷河の顔は、先ほどの表情とは違い、穏やかな笑みを湛えていた。すまない、では続きを、と言いながらカミュの元へ歩み寄る。
先生、あの人の前と俺の前ではずいぶん違う。
自分のことを「俺」と呼んでいた。童顔で、女の子のような顏をした瞬に、言いたい放題言わせて、ずいぶん困ったひと扱いされていた。
なんとなくおもしろくない。
ミロに対する対抗心とはまた違った不快感があった。
「どうした?続きをやろう。凍気を宙に舞わせるところからだ」
「……はい」
カミュは口では従順に返事をしたものの、そこから後は、全く修行に身が入らなかった。
**
瞬に言われていたから、氷河が、どこかへ、その「兄さん」とやらに会いに行く素振りを見せるかと思っていたが、あれから3日たっても4日たってもカミュの知る限りでは氷河は養成場と宝瓶宮を往復しているだけのようだった。
もういいのかな、とカミュが忘れかけた頃、宝瓶宮にまた客があった。
カミュに物理化学の理論を教えるために、一緒に机に座って書物を開いていた氷河は、おそろしく攻撃的な小宇宙が近づいてくるのを感じて顔を上げた。
「一輝……!」
師の声に、わずかに怯んだような響きを感じて、カミュも思わず顔を上げた。
「ほう。俺の名はかろうじて覚えていたようだな」
入り口のところで、腕を組んで立っている人物は逆光になって、カミュからはその表情は見えなかった。が、声が尖っている。
氷河は慌てて立ち上がり、一輝を扉から外へ押し出す。
「言いたいことは後で聞く。頼むから、ここではやめてくれ」
一輝は氷河の肩ごしにカミュを見た。
「ふん。ガキがいるから、か」
しばらくカミュをじろじろと観察するように眺めた後、一輝は長い腕を巻きつけるようにして氷河の首の後ろを乱暴に掴むと、耳元に口を近づけ、低く囁いた。
「今日こそ来い。お前が来ないなら俺が来る」
一輝は氷河の返事を聞かず、突き飛ばすように体を離すと、そのまま姿を消した。
氷河は棒立ちになって何ごとか考えている。
カミュは一部始終を見ていた。一輝が氷河に何と言ったのかは聞き取れなかった。
しかし、氷河に触れるその腕が、何故かたまらなく不快だった。
氷河は戻ってきて、気まずそうにカミュを見た。
「先生、今の人……?」
「ああ……彼も黄金聖闘士だ。獅子座レオの一輝だ。この間、ここへ来ていた瞬の兄だ」
あの人が「兄さん」。
ということは、俺のことで何かもめているのだろうか……?
心配そうに見上げてくるカミュの頭を氷河はくしゃりと撫でた。
「大丈夫。悪い奴じゃないんだ。無愛想だから誤解を受けやすいだけで。今のも怒っていたわけじゃない」
一輝をかばう氷河がカミュにはおもしろくない。
一瞬、怯んだのに。
先生、俺に関することで喧嘩しているのではないのですか?
そう訊きたかったが、氷河がまた開いていたページの説明に戻ったので、それ以上、そのことについて訊く機会はついに訪れなかった。
**
カミュが熟睡していることを確認して、氷河はそっと宝瓶宮を抜け出す。
気鬱な事態をなるべく引き延ばそうとでもするかのように、氷河はできるだけのろのろと階段を下りたが、いつもは長く感じる獅子宮までの道程が今夜に限ってやけに短い。気づけば獅子宮に辿り着いてしまっていた。
「一輝……?」
眠っていてくれればいいが、と声を落として呼びかけながら寝室に向かう。
扉を開くと、一輝は頭の後ろで腕を組んでベッドに横たわっていた。が、氷河にとっては残念なことに、目を閉じていただけで眠ってはいなかったようだ。すぐに不機嫌さを隠そうともしない声が返ってくる。
「遅い」
腹をくくるしかない。
は、と氷河はため息をついた。
「仕方がない。……カミュが起きている間に来るわけにはいかないだろう」
「この俺の前でよくその名を呼べるな。俺はそいつのことを知らないことになっているわけだが」
「隠すつもりじゃなかった」
「つもりじゃないが聞いて呆れる。ガキを預かってから何週間たつんだ。お前が、あんまり宝瓶宮には来るなとうるさいから尊重してやったらコレだ。雑兵どもから聞かされた俺の立場は考えたことあるのか」
「瞬から聞いたわけじゃなかったのか……」
「あいつは、お前の口から言うチャンスを与えたんだ。お前がそれを無駄にした」
「……悪い。……怒ったか?」
「見てわからんほどお前の目は節穴か」
「…………悪い」
氷河はベッドに近づき、一輝のそばに腰かけた。
一輝は頭の後ろに腕を組んだまま、不機嫌な表情で黙りこんでいる。
「ほんとに悪かったと思ってる」
だからそんなに怒るなよ、と氷河は手を伸ばして指の背で一輝の頬を撫でた。
甘い仕草で許しを乞われては、そう長くも怒り続けてもいられない程度には、特別な関係を結んで長い。
一輝はため息をついて、やや表情を和らげた。
「俺だけ蚊帳の外だった理由を聞かせろ」
「そういうつもりはなかったんだ。ただ、本当に忙しくてタイミングを逃しただけだ」
「嘘だな。あのガキじゃなければお前は俺に言ったはずだ。違うか」
今度は、やめろよ、と氷河が不機嫌になる番だ。
「能天気にカミュが帰ってきた、と報告に来たってお前は怒るだろう。どっちにしたって怒られるなら、わざわざ体力をつかってこんなところまで下りてくる意味はない」
「『帰ってきた』か。お前にとってはそうなんだな」
「……………………違う。言葉の綾だ。あれは俺の知るカミュじゃない。カミュはもういない」
お前が何度も俺にそれを突きつけた、と氷河は少し恨めしそうに一輝を見た。
「こういう話になるとわかっていたから嫌だったんだ。急に『先生』することになったってだけで、俺だっていっぱいいっぱいなのに、お前に一体何を言えばいいんだ」
「俺は何も難しいことは要求していない。弟子をとることになった、とたった一言だ。それで終わりだったはずだ。何も含むところがないなら、な」
しつこい、と氷河が顏を顰めた。
「もういいだろ、一輝。…………ちゃんと会いに来ただろう。それだけじゃ不満なのか」
氷河が一輝を訪ねるのは稀で、いつだって一輝の方が氷河に会うために石段を上るのが常態だ。
カミュが傍にいて、それでも宮を抜けてきたというのは、氷河にしては最大限譲歩した結果なのだということは理解でき、だから、結局一輝は、深いため息をついて折れるしかない。
一輝の態度が軟化したことに安堵したのだろう、機嫌直せよ、と氷河は腰を折って、一輝の唇に己の唇を重ねた。
キス一つで誤魔化せると思われているとはずいぶん舐められたもんだ、と思ったが、実際のところ、たいていそれで誤魔化されてきてやったのだから仕方がない。(笑わば笑え、俺は氷河を甘やかしているとも!)
触れただけで去ろうとする熱を逃がさぬよう、一輝は氷河の頭を押さえつけ、深い口づけへと変えてしまう。
が、ん、と小さな抗議の声を漏らして、氷河が一輝から離れた。
「お前……煙草を吸ったな」
「だからどうした」
「あれほどやめろと言ったのに!聖闘士の自覚が足らなすぎだろう!」
「正確に言えば禁煙は成功していた。お前が俺を苛々させるまでは」
「意志の弱さを俺のせいにするな。約束が違う。今日はもうキスはなしだ」
「お前な……!えらそうに我がまま言える立場か!」
「約束は約束だ」
お前は本当に冷たい、生殺しとはあんまりだ、と顏を歪めた一輝の姿に、氷河は少し笑った。
以前なら、約束などお構いなし、氷河の意志を確認する素振りも見せなかった男は、少年期の尖った部分を捨ててずいぶんと柔らかくなっている。力に対して力で返していた関係は過去のものだ。
氷河は、寝ている一輝の身体の上へのしかかって言った。
「キスがダメだと言っただけだ。『生殺し』じゃない」
「…………珍しいこともあるものだ。覚悟しろよ、こっちは何週間も放ったらかされていたんだ」
「起きられなくなるようなのはナシだからな。宮に帰らないわけにはいかない」
おい!と一輝は思わず大きな声を上げた。
「煽っておいて釘を刺すとかたいがい酷いな、お前は!」
はは、と笑う氷河の身体を勢いよく反転させて、一輝はそれを組み敷く。
「ああっ、ん、はっ……ああっ……」
一定のリズムで揺れる一輝の体躯の下で、同じリズムで身体を揺さぶられている氷河がひっきりなしに甘い声を漏らす。
「お前、今日なんかすごいな」
「それは…ン……あっ……く…一輝…ッ」
氷河の片方の足首を掴んで、高く掲げて自分の肩にのせる。細い腰を押さえつけてさらに深く侵入させると、氷河の声がさらに艶めいて高くなる。
「あああっ……はあっ…ん……ぅあっ……奥に……っ……」
氷河は強請るように一輝の腰に手をまわしている。
いつも、まるでそれが罪であるかのように、必死に快楽から逃げている氷河が、今日はいつになく乱れている。
複雑だ。
素直に求められて悪い気はしない。
が、今までどれだけ手を尽くしても一度も得られなかったものが、今このタイミングで、というのはどうも面白くない。
ずっと氷河の心を重くしていたものから、いくらか解放されたのか?
それとも単にずいぶん久しぶりだから、か?
なんとなく赤毛の男が脳裏をちらついているような気がして、苛立ちが愛撫を乱暴にさせる。だが、その乱暴な愛撫すら、氷河をいつも以上に高めさせているにすぎない。
一輝は片足を抱え上げたまま、両掌を氷河の顔の横について、体を沈ませる。
「…っ、あ、あーっ」
身体が鋭角に折り曲げられて、挿入がより深まり、氷河は一輝の髪をつかんでのけぞる。内襞は熱く一輝に絡みつき、ひくひくと締め上げてくる。
奥まで何度か突き上げると、氷河は身をよじって獣じみた嬌声をあげた。
「う……あっ、あっ…ん……ああっ」
一輝にしがみつくように腕をからませ、恍惚とした表情を見せている。何も隠すことなく、素直に悦びの声をあげられては、一輝の欲も煽られる。
「ああっ……あ……も、もう…」
氷河の限界が近い。
一輝は追い込むように早めていた律動を止めて、氷河と体を二つ身に分ける。
「っ…?な……んだ?」
「お前が上だ」
「……苦手だ」
「知ってるさ」
鼻の頭に皺を寄せた氷河は、だが、よほど極みの欲求が切迫しているのか、大人しく身を起こして、ベッドの上に座った一輝の上に跨り、屹立した一輝の雄に手を添えるとその上にゆっくりと身を沈めた。
「アア……」
氷河は満足そうな吐息をもらして、それを再び根元まで身の裡に収めきり、一輝の首に腕をまわす。うるんだ瞳で一輝を軽く一睨みして、氷河はゆっくりと腰をおしつけはじめた。
体を少し浮かせて、それから沈ませる。
自重で深く沈み、思わず吐息と声が漏れる。
何度かそれを繰り返すうちに再び快楽が高まってくる。
しかし、背中を駆け上がるような甘く痺れるようなその感覚を追い求めると、自分の動きが疎かになり、せっかく高まった快楽が急速に逃げていく。
もう一度、動き始めると、再び甘い疼きが生まれ、そしてまた逃げる。
ベッドのスプリングが揺れて、氷河の動きを助けてはくれるが、なかなか自分の求めるものが訪れないことに焦れるばかり。
「一輝……」
そう言って、氷河は媚びるように一輝に唇を重ねてきた。腰を押し付けながら、唇を開き、舌を絡ませて、その先を誘ってくる。
キスはダメだと言ったにも関わらず。
一輝は笑って、氷河の必死の求めを愉しむ。
「一輝……早く……」
氷河のうるんだ瞳から一筋涙がこぼれる。
たまらなく淫らな雫だ。
一輝はそれを舌で舐めとると、氷河の白い双丘を掴み、下から跳ね上げるように激しく何度も突き上げてやる。
「あーっ、や、ああっ…んっ……いいっ」
氷河は髪を振って一輝にすがりつき、もっともっととキスをねだってくる。
一輝が唇を差し出すと、氷河は噛みつくように唇を押し付けてきた。
「んっ……んぅっん……ん、んんんーっ」
一輝が氷河の弱いところを続けて突き上げると、氷河の肉がびくびくと痙攣して一輝のものを熱く締め付けてきた。
氷河は背を弓なりにのけ反らせて、高い声を上げて白い蜜を散らした。やや遅れて一輝も氷河の中に熱い精を放出させた。
氷河がぐったりと一輝に体を預けてくる。
吐精後の気怠さに身をまかせて、まだ繋がったまま、一輝も氷河の背を撫でながら、その肩口に顔を伏せる。
しばらくの間そうして呼吸が整うのを待って、一輝は言った。
「おい。寝るなよ。帰るんだろ」
氷河はまだ惚けた表情で一輝を見た。
「なんだ、追い出すとは冷たいな」
「あのな。お前が言ったんだろうが」
「へえ……お前がそれを守るとは思わなかった」
「帰りたいのか帰りたくないのかどっちなんだ」
「言われなくても帰るさ」
氷河はまた一輝の首を引いて唇を重ねてくる。
「……もう一回したらな」
───お前、本当にどうかしている。
一輝は苛立ちを通り越して呆れ果てるばかりだ。