寒いところで待ちぼうけ

サンサーラ:<外編>


サンサーラ本編より数年前。
2222キリリクより 「一氷はじめて話」というお題でした
性表現あります。18歳未満の方、閲覧をご遠慮ください。


◆新しい聖域で ③◆

「一輝、また……?どこ行くんだ」
「ヒナの餌づけだ」
「ヒナ?なんの……?」
 あれから、頻繁に、機会さえあれば宮を放棄しては宝瓶宮に行き、せっせと食事を作ってやっている一輝に、途中の宮の友人たちは不審げだ。
 そりゃそうだろう。
 大量の食糧を抱えて、石段を行ったり来たりしている人間を見たら自分でも変だと思う。
 瞬のように元々かいがいしく他人の世話を焼くのが好きな人間ならともかく、どっちかと言えば、あまり人と深くかかわってこなかった自分のような人間がまさかこんなおせっかいを焼いているとは誰も思わないに違いない。


 その、白鳥のヒナは一輝の姿を認めると、少し表情を崩した。
「また来たのか」
 嫌がっている声の割には、ちゃんと入り口で待っていた。食事が終わったら帰れ、とは言うが、一輝が食事を作り終えるまでは帰れ、とは口にしなくなった。
『餌づけ』というのはあながち間違いじゃない。
 今日は入り口で待っていただけだが、そのうち腹が減ったら迎えに出てくる距離が少しずつ伸びて、獅子宮まで来るんじゃないか、コイツ。
 それを露骨に嗤って臍を曲げられたら面倒なので、内心で笑うだけにとどめて一輝は勝手にキッチンへ進む。
 氷河は、やはり自分で作っては食べていないようだが、一輝の手によるものなら普通に食べる。
 食べられないわけではなく、自分で作れないわけでもなさそうなのに、なぜ、こんなになるまで食べていなかったのかよくわからないままだ。


「お前、意外にも料理できるんだな」
「当たり前だ。2歳から瞬の面倒を見ていた男だぞ、俺は」
「……それは冗談にしか聞こえないからやめろ」
 忙しく立ち働く一輝のそばをウロウロしながら、氷河は手元をのぞき込んでいる。
 きちんと食べるようになって数週間たつ。氷河はかなり体力が戻ったようだ。
 魚の焼き加減を見ながら、隣に立って珍しそうにじっと見ている氷河の頬をつまんでみる。
「痛い痛い痛い!何するんだ!俺、今つまみぐいなんてしていなかっただろ!?」
「これからするところだっただろうが」
「そんな子どもじみたことするか、バカ!」
「手伝う気がないなら、目障りなだけだ。向こうへ行け」
「勝手にしろ!」
 氷河はプリプリ怒って浴室の方へ消えて行った。
 一輝は柔らかな氷河の頬の感触が残る手を確かめるようにじっと見た。
 よし。
 肉付きもよくなった。
 一安心といったところか。やれやれだ。

 これだけ人に世話をさせておいて、あれで、自分では頼りになる兄のつもりでいるのだから参る。「弟」たちがどれほどハラハラ氷河を見守っているのか気づいてもいない。
 最初のうちは、必死に兄貴ぶろうとしている氷河が可笑しくて仕方がなかった。
 お前、そういうタイプだったか?と。
 だがそのうち、それが、心の拠り所を次々に失って血まみれの心を鎧っているだけの虚勢ではないかと気づいて、一輝は無性に苛立ちを覚えるようになった。
 氷河は誰よりもナイーブなくせに、絶対にそれを周囲に悟らせまいと、いつも必要以上に突っ張っている。
 なぜ、俺たちの前でまで虚勢をはる。
 俺に対してだけならわかる。
 氷河に虚勢を張らせているものは、多分、自分の方にも原因はあるのだと一輝は自覚している。
 だが、星矢たちにまで。
 そんなに心を鎧で固めてお前はどうするつもりだ。
 ずっと誰にも触れさせないつもりか。
 一匹狼が板についた俺ならともかく。
 お前のそれはとても見ていられるものではない。

**

「はあ、食った」
 機嫌よく一輝が作った食事をもりもりと氷河は平らげて、満足してソファにごろりと横になっている。
 食事の準備だけではなく、なぜか一連の洗い物から片づけまで一輝が担っている。甘やかしすぎだ、と自分でも思うのだが、気づいた時には遅かった。
 お前が勝手にしているんだから当然お前がするんだよな?と疑いもせずに、空っぽの皿を差し出してくるのをうっかり受け取ってしまい、以来、抗議の機会を逸したまま、おとなしく片づけまでをこなしてしまう一輝である。
 使い勝手よく、きちんと整備されたキッチンは獅子宮のものとずいぶん違っている。
 かつての主の意向がいくらか反映されているのだろうか。一輝にはどうということのないキッチンだが、もしかしたら、氷河には何か思うところでもあるのかもしれないと思えば、無理に氷河を立たせることも躊躇われる。(「味見」の時には気軽にキッチンをうろうろしている姿からして、単に、体よくつかわれているだけだという気もしないではないが、割に几帳面な性質をもつ一輝は、下手に氷河に雑に洗い物をされるよりは一人で好き勝手に片づけられた方がよほど気楽なのだから、まあこれでよしとする)

 洗い物から戻ると、氷河は口を開けて眠っていた。何度警告しても学習しない。
 体がソファから落ちそうになっている。
 一輝は体の下に手をさし入れて、戻してやった。シャンプーか石鹸か甘い香りが鼻腔をくすぐる。

「……ん……カミュ……」

 聞いたことのないような蕩けた声でその名を呼んだ氷河に、一輝の眉間に不審げに深い皺が寄る。

 亡き師を呼んだにしてはあまりに甘い声だ。

 試しに、まだ少し濡れている氷河の髪を梳るように指をさし入れて何度か梳くと、寝顔がくすぐったそうに柔らかくほどけて、また氷河は、カミュ、と呼んだ。

 氷河、お前はまさか……。

 一輝の心臓が熱を帯びて脈打つ。

 どうりで。
 時間と共に訪れるはずの永別の哀しみの薄れが、お前にはなかなか訪れないはずだ。
 克服が困難なのは、師の命を自らの手で奪うという、壮絶な戦いの傷が深かったせいかと思っていたが、なるほど、お前が奪った命は師であったと同時にお前にとっては師以上の特別な───

 爆発的に一輝の内側で上がった熱は嫉妬か、いや、これは多分怒りだ。
 何に対する怒りかはわからない。
 強いて言うならすべてに対して、だ。
 氷河と師を戦わせたものに、先に逝ってしまった氷河の師に、後生大事に抱えていても苦しい思いを未だに断ち切れないでいる氷河に、そもそも、こんな世界に身を置くきっかけになった始まりの男に。
 ───何より、何もできないでいる己に。
 いつまでも死者を超えられないとは不死鳥の名も廃る。

「……それはないだろう。今さんざん世話してるのは誰だと思ってるんだ?」
 言って、おい、と一輝は氷河の耳元で呼ぶ。
 氷河は、うん、と半覚醒の声だけで返事をしておいて、まだ、寝息をたてている。
 一輝は無防備に開かれた氷河の唇に自分のそれを強く押し当てた。
 それは触れるだけでとどまらず、濡れた音を響かせて次第に深まる。これには流石に眠ってもいられなかったのか、ややして、氷河の薄い色の瞳が開かれた。
「……カ……一輝?………ああ、オレ寝ていたのか。帰るのか?」
 目を瞬かせて起き上がった氷河は一輝の行為を、いつもの挨拶と受け取ったようだ。
 じゃあな、と別れを告げようとする氷河の両手を一輝は掴んだ。
「……なんだ。痛い、離してくれ」
 氷河は難なく一輝の手を払いのけて、不愉快だ、と言わんばかりに顔を歪めた。

 いつもの氷河だ。もう遠慮はいらない。

 一輝は再びその腕を掴んで、己の体躯に組み敷くように氷河の上にのしかかる。
「痛い、一輝!」
「俺は何度も言ったよな。俺の前で無防備に寝るな、と」
「……俺も『ふざけるな』と何度も言ったが」
「ふざけてはいない。俺はこれからお前を抱くぞ」
 一足飛びに飛躍した一輝の宣言に、氷河は何を言われたのかわからない、という顔で眉根を寄せた。
 徐々にその意味が浸透して、だが、浸透したことで激しい混乱が氷河を襲う。
 意味はわかった。が、真意はわからない。
「……決定事項なのか」
「決定事項だ」
「なぜ、お前が勝手にそんなことを決める」
 氷河はじっと一輝の瞳を見上げる。
 一輝の瞳が、冗談だ、と言って笑うのを待っていたが、いつまでたってもそれは訪れない。
「……欲求不満なのだとしたら自分でどうにかしろ。俺をあてにするな」
「そうじゃない。お前を抱きたいだけだ」
 なにを、と言ったきり氷河は絶句する。
 顔を合わせると、突っかかって、まるで喧嘩のような会話ばかりだったのに、突然にそんなことを告げられても困惑するだけだ。
 確かにキスは何度もかわした。が、あんなもの、それこそ挨拶か、さもなきゃ嫌がらせくらいの意味しかないと思っていた。襲うぞ、と言われても冗談だとしか思っていなかった。
 いや、今この期に及んでも、まだ悪い冗談にしか思えない。
 狼狽える自分を見て、きっとまたバカにしたように笑うに決まっている。
 そうであってくれ。

 しかし、今、氷河の両足を割るようにさし入れられた一輝の体は熱く、下肢には覚えのある熱く硬い塊が当たるのを感じる。その熱は、冗談などではありえない。
「本気、なのか……?」
 氷河の瞳が混乱して激しく揺れる。
「本気でないように見えるのか」
 見えない。見えないから困っている。
 だが、応えようがない。
 氷河は一輝の視線を逃れるように顔をそむけて言った。
「一輝……本気ならなおさら駄目だ。俺は……無理だ」
「何故だ」
「何故って……とにかく、無理なものは無理だ。今日は大人しく帰ってくれ。飯も……もういい。今まで助かった。礼を言う」
「そう言われて引き下がる俺だと思うか?」
 一輝は掴んだ氷河の腕にますます力を籠めると、首筋に噛みつくようなキスを落とした。氷河の口からくぐもった悲鳴のような声が小さく漏れる。
「一輝……!やめろ!」
 氷河は激しく暴れて、片腕を一輝の戒めから抜け出させると、その頭を押し戻そうと突っ張る。暴れた拍子に、氷河の爪が一輝の頬をかすめて、つ、と血が流れた。
 流れた血に、一輝ではなく氷河の方がハッと竦んで、次なる一手が躊躇した。その隙を逃さず一輝は再び体の下に氷河を組み敷く。
「この手を離せ!」
 なおも体を捩って逃れようとする氷河の唇を一輝は乱暴に塞いだ。途端に唇の上に痛みを感じて離れる。
 氷河の唇の上に、ポタリと赤い雫が落ちた。氷河は荒い息で、唇を戦慄かせている。
 一輝は挑発するように視線を交差させたまま、その雫を舌でチロリと舐めとった。
 膝で押さえつけている氷河の足がばたばたと暴れて空を蹴っている。
 一輝は押さえつけている腕に焼けるような痛みを感じて呻いた。
 なるほど、凍気か。上等だ。

 上に乗られて、力だけでは跳ね除けられないと悟るや、一輝が触れているところに凍気を放って、拒絶の意志を示したのに、一向に強引に始まった行為は止まる気配がない。
 それどころか、ますます荒々しくうなじに鎖骨に耳元に、噛みつくようなキスを落としていく一輝に、氷河は観念したかのように、荒い息の下で叫ぶように告げた。

「もうやめろ、一輝!……俺は……俺の心はカミュのものだ!お前じゃない!だから、こんなことは無意味だ」

 ようやく本音を見せたな。
 驚きはなかった。
 予想された答えだ。氷河が素直にそれを認めたことには驚いたが。
 だが、それは一輝を止める理由にはなり得なかった。
「だからどうした。とっくに死んだ人間相手に何を操をたてている。意味があるかどうかは俺が決める」

 傷つけるのも厭わず告げた言葉を一輝に平然と退けられ、氷河は己の方が酷く傷ついたような顔をした。
 途方にくれ、抵抗が一瞬止まった氷河に、一輝は戒めを解いて、着ていた服をほとんど破らんばかりの勢いで乱暴に脱がせる。
「や、やめろ!俺にその気はないっ」
 湯上りで濡れたような白い肌が晒され、それは激情に流されているようでいてどこかまだ冷静だった一輝の中心にある種の火を灯す。
「一輝!」
 制止の声を聞かずに、その肌に唇を押し付け、歯をあて、舌でなぞる。
 やめろ、と首を振る氷河の身体が時折震えて小さな反応を返す。
「お前……初めてじゃないな」
「……っ!」
 稲妻に撃たれたかのように大きく跳ねた氷河の身体を押さえつけるように抱いて、一輝は耳元で低く囁く。
「相手はカミュか?」
「先生を……っ……お前と……一緒にするなっ」
「さあ、どうだかな。雄の欲求は皆同じだ」
 氷河は違う、と何度も首を振った。
 死して時が止まってしまった彼の師は、氷河の中で多分永遠に美化され続けている。
 生きていれば、きっと、喧嘩の一つもしただろうし、互いに小さな不満が起きたこともあったに違いないのに、美しく、完璧なまま、その関係性は不変となってしまった。
 あまりに手ごわいが、ゆえに、一輝も決して退けはしないのだ。


 どれだけ暴れて身を捩っても、はっきりと言葉で拒絶しても、懇願しても、全く止まることをしない一輝に、氷河はやがて諦めたように体を弛緩させた。
「……一輝……せめて……ここではやめてくれ……頼むから……」
「カミュがいた場所だからか。ならば、なおさらここでないとだめだ。生きているのは俺とお前だ」
 氷河のその最大限の譲歩すら一輝は認めない。
「氷河。カミュはもういないんだ。お前はそれを思い知ったはずだ。生きている人間にもっと目を向けろ」
 一輝は弛緩した氷河の身体に、命の脈動を見せつけるように激しい愛撫を加えていく。
 氷河は、せめてもの抵抗として、声をあげまいと、しっかりと唇を結んでそれに耐える。声のひとつ、吐息のひとつも漏らさずに、できる限りの無反応で。

 しかし、全てを曝け出された身体は、少しずつではあるが目に見える形でその反応を示す。
 自分の意志だけでは抑え込めない反応だが、一輝に、そのことが気づかれていると思うと、羞恥と屈辱で気が遠くなりそうで、氷河はひたすら唇を噛む。

 一輝は勃ち上がった氷河の根元を長い指で締め付け、透明な蜜を零す尖端を親指の腹で拭う様に嬲った。
 努めて無反応を返そうとしている氷河の肩が、大きく息をつくように上下する。
 久しぶりに他者から与えられる感覚に氷河の中の火が消せないほど大きく燃え盛る。
 感じるものか、と思っているにも関わらず、身体は早くも解放を求めていて、思わず媚びるような声が漏れそうになる。
 そのことが悔しく、自分で自分を許せない。
 なのに極みを求めて勝手に揺れそうになる腰を抑えるのが苦しい。
 一輝は氷河が必死に耐える様子を見て、強情な、と少し笑い、だが愛おしげにその唇に深く口づけた。
 同時に氷河の根元を締め付けていた指を解放させて、強く一気に擦りあげる。氷河の頑なだった唇がついに開いて、苦しさに呻くような吐息が漏れた。
「…っ…ふ…ぅん……─────っ!」
 強制的に与えられる強い愛撫に堪えきれず、氷河は四肢を突っ張らせて、白濁した液を散らした。
 一輝が唇を離すとこじ開けた唇から、飲み込み切れなかった唾液がつ、と零れ、そのことにも気づかないまま、氷河は、はっはっと浅い呼吸を返した。

 一輝は指を氷河の秘所へ滑らせる。そこは氷河自身の液で熱くぬめっていた。つぷりと指を埋めると、放出の余韻で弛緩していた氷河の身体が跳ねた。
 目を見開いて、氷河は一輝の腕を掴んで止める。しかし、一輝はお構いなしに、さらに深く指を進めた。
「───っ!」
 氷河は声をあげず、一輝の腕に爪を立てて抗議する。
 長い間、他者を受け入れていなかったそこは、まるで初めての時のように、狭く、侵入を拒むように一輝の指を締め付けてくる。一輝はゆるゆると指を抜き挿しするが、氷河は痛みと苦しさに耐えるようにひたすら歯を食いしばって、一輝の腕に爪を食い込ませる。
 きつい締め付けに、一輝はその指を引き抜いた。
 諦めてくれたのかと、氷河がほっと息つく間もなく、一輝は氷河の白く柔らかい太ももを抱え上げ大きく左右に開くと迷うことなく中心へ顔を埋め、氷河が零した雫で濡れた秘所に舌を挿し入れる。
「……っああ!」
 予想外に突然もたらされた熱く湿った感触に思わずのけぞって声が漏れる。
 一輝の髪を掴んで抗議するが、余計に執拗にそこを責められ、何度も濡れた塊を挿し入れられているうちに、勝手に、身体は男を受け入れるために柔らかく解け始めていた。

 氷河のものが再び力を取戻し始め、肉襞がひくひくと蠢きはじめたのを感じて一輝は舌を抜き、再びそこへ指を埋めた。
 一本……ゆっくりと二本。
 唾液で潤みきったそこは今度はあっさりとそれを受け入れる。
 二本の指で肉襞を押し広げるように撹拌され、氷河の腰のあたりにじんわりと甘く痺れる感覚が押し寄せてきた。執拗に内側を責め立てられ、思わず高い声が漏れ、氷河はまた唇を噛んで耐えようとした。
 それに気づいた一輝は体を落として唇を塞ぐ。
 氷河が、挿し入れられた舌を自分の唇の代わりに思いきり咬んでやると、一輝はそれすら愉しむように、指の動きを激しくした。氷河の敏感なところを探し当て、指の腹を往復させて擦りあげると、氷河は咬みついていた一輝の舌を解放して声をあげてのけぞった。
 氷河のものからまた透明な滴がとろりとろりとと零れて一輝の指を次々と濡らす。
 一輝が指を抜くと、ぐちゅ、と水音を響かせてそこはひくひくと震えた。
 一輝は、氷河の太ももを抱え上げて自分の猛りをそこへ押し当てた。さんざん慣らしたとはいえ、全く違う質量の侵入を拒む秘所は悲鳴をあげる。堪らず、上にずり上がって逃げようとする氷河の肩を押さえ、一輝は強引に楔を打ち込んだ。
「─────っ!!」
 氷河は苦しさを逃すように短く浅く呼吸を逃す。最初の衝撃が落ち着くのを待ってやり、一輝はゆっくりと腰を動かし始めた。
 氷河の爪が一輝の肩に強く食い込む。
 苦しさを逃すために呼吸をしようと口を開くと、声が漏れる。
 その声が、自分の意志に反して、甘く淫らに掠れるのを避けられずに、氷河はひたすら息を詰めて耐える。
 それに気づいて一輝は今しがた指で探り当てた、氷河の感じるところに集中して腰を打ちこむ。
「──っ……ふっ……っ……はぁっ……あ…」
 途切れ途切れに、吐いた息とともに押し殺しきれなかった声が漏れ、氷河の目尻に涙がにじみ始める。
 一輝は低く言い聞かせるように囁く。
「氷河、逃げるな。俺を感じていろ」
 一輝の肩にますます氷河の爪が深く食い込む。
「……んっ……ふぅっ……ん……あっ……」
 一輝の律動に合わせて、短く切れ切れに紡ぎだされる氷河の声が少しずつ高くなり、一輝をおさめきって絡みつく肉襞がきゅうきゅうと締め付けてくる。
「…く……んっ……んっ……─────っ!!」
 痛いほど締め付けてくるそこへ、一輝が窪みを抉るようにひときわ激しく腰を打ち付け熱い欲望の滾りを放つと、どくどくと注ぎこまれたものの熱さに、氷河は声にならない悲鳴をあげて、ひくひくと痙攣しながら再び絶頂を迎えた。