寒いところで待ちぼうけ

短編:ザク



遠距離恋愛中なアイザック×氷河
性表現あります。18歳未満の方、閲覧をご遠慮ください。


◆Distance ep2 後編◆

「……もう何もないよな」
 飯も食った。風呂も入った。布団も敷いた。明日の朝食の予定も聞かれた。
 もう邪魔は入らない……はずだ。
 これ以上邪魔が入ったら、俺はともかく、氷河はもう無理だ。既にもう気持ちがくじけかけて、布団の上で正座したままアイザックに背を向けている。

 その背を後ろからそっと抱き締める。纏め上げた髪の間に見えるうなじにキスを落とす。白かったうなじがみるみる朱に染まる。
「氷河……」
 沈黙がおりる。
 どこかからか聞こえる水の音と、衣擦れの音だけが二人の耳を打つ。
 氷河の胸の前で組んだアイザックの手に、早鐘を打ったかのような鼓動が伝わってくる。アイザックの鼓動も氷河の背に伝わる。触れているところ全てから鼓動と熱が伝わり、次第にどちらがどちらのものかわからないほど混じり合う。
 アイザックの手に氷河はそっと自分の手を重ねる。その手が小さく震えている。
「アイザック……大好きだ」
「うん。俺も」
 氷河の頬に手をかけ、そっと振り向かせて、今日何度目かの口づけを落とす。触れ合わせただけのままで、少し待つ。
 よし、邪魔はもう入らない。
 ゆっくりと唇を開いて、互いの唇を啄むように食み、少しずつ、深く、何度も重ね合わせる。
 氷河の髪から甘い香りが漂っている。多分、自分も同じ匂いがしているはずなのに、氷河がまとっているというだけで、それは堪らなくそそられる香りになる。
 は……と切なげな吐息をついて、アイザックに背を預けて上目づかいに見上げる氷河は、幼い頃から一緒に育ってきたはずなのに、まるで知らないヤツのように壮絶な色香を放っている。
 そう感じるのは俺がコイツのことが好きだからだろうか。
 いや、こんな潤んだ瞳で見られたら、どんなヤツだってイチコロだ。
 だからこそ、離れていることに俺は焦りを感じている。
 この一ヶ月、気が気じゃなかった。
 あんなふうに煽られたまま別れて、最初はウキウキと次の予定を組んでいたが、冷静になってくると心配になってきた。キスの仕方を知らなかったお前が、あんな誘い方するようになるなんて。
 誰に教えてもらったんだ。まさか、本当に、初めてじゃないってことはないよな。
「お前、『一緒に気持ちよく』って言ったよな」
「……今、このタイミングで、わざわざそれ確認するのか?」
「いいや。はっきりさせておきたい」
「何を?」
「お前『一緒に気持ちよく』って、どうやるか、知ってるのか」
「なっ何言い出すのかと思ったら……!」
 思わず氷河は、アイザックから身を離して、勢いよく振り向いた。頬が紅潮して、声が上ずっている。
「聞くなよ!知っているに決まってるだろう!知っているからこそ、恥ずかしかったんだろ、さっきから!!」
「……それはさ、誰に教えてもらったわけ。まさか他の奴ともしたことあるとか」
「な!?それを聞くのか!?俺のことを何だと思っているんだ!キスだってアイザックとしかしたことないのに!」
 氷河は怒って枕でビシバシと叩いてくる。アイザックひどい!きらいだ!と少し涙声だ。
 しまった、泣かせたか、と思いながらも、追及せずにはいられない。アイザックだって氷河を前にして気持ちに余裕があるほど大人ではない。痛いって、と声をあげながら、アイザックも枕をつかんで反撃する。
「じゃあ、なんで知ってるんだよ!キスだって俺が教えなきゃ、挨拶とそうでないのと違いもわからなかったくせに!」
「そんなの、なんとなく、に決まってるだろう!!多分、そうかなって思ってるだけで、俺だってよくやり方なんか知るもんか!!!そういうお前こそどうなんだ!いつだって先輩面して、お前こそ、お前こそどこで覚えてくるんだよ!」
 俺は海界で悪いアニキたちに色々吹き込まれてるせいだよ!
 心の中だけで返事をする。海界の話をしたら氷河が超絶に機嫌が悪くなるのを知っているので、どうにか声にするのは堪えた。さすがにコレ以上こじれるのはまずい。
 でも……あんなこと、なんとなく、で回答に辿りつけるもんなのか?
 氷河がぶつけてくる枕を掴んで止めてさらに聞く。氷河はものすごく怒っているが、こっちだって大真面目だ。
「知ってるっていうなら聞くぞ。お前、自分はどっちだと思ってるわけ?する方?される方?」
「そっ…………そんなこと!!!聞くなよ、わかりきったことを!!」
 待て。
 ちょっと待て。
 わかりきったこと、なのか……?
 俺は全然わからんぞ!!
 はっきり言って俺はお前に突っ込みたい。身もふたもない言い方だが。だが、お前はそれでいいのか?わかりきった、と断言するほどに?
「試しにお前どっちだか言ってみろ」
「なんなんだ、もう!アイザックのばーか!そんなの決まってる。……する方だし、される方だ。どっちかだけだと不公平だろ」
 …………!?
 待て待て待て待て。
 どっちも!?
 不公平かと言われたら確かにそれは間違っては、ない。
 けど、普通はどっちかに固定するもんじゃないかなというか、ええと、俺が覚悟ができてないというか。
 しかし、お前がそうしたいというなら……いや、悪いがちょっと想定外ですぐには心の整理がつきそうにない。
「俺は……する方、はいいけど……される方、はちょっと……」
「ええっ!な、なんでだ?俺は、恥ずかしいけど、アイザックとだったらいいかと思って、ちゃんと心を決めて来たのに。だいたい、なんで『される方』が嫌なんだ。普通はそっちの方が気持ちいいだろう。お、俺はアイザックのことを気持ちよくできるほど上手じゃないかもしれないけど……」
 ……ちょ、ちょっと待て、色々ちょっと待て!!!
 まあ、お前の覚悟はわかった。
 それはものすごくうれしい。
 俺とならいい、というのが泣かせる。
 最高に感動した。
 でも、「される方」が「普通」気持ちいいっていうのはどういうことだ。なんでお前がそんなこと断言する。
「なんでされる方が気持ちいいってわかるんだよ」
「え?ええ?何で知らないんだよ。お前だって自分ですることあるだろう」
「するかよ!!えっ、お前、自分でしてるのか!?」
「はああ??何言ってんだ、アイザック!?この歳でしない方がおかしいだろ!」
 ……。
 ……。
 ……おかしい。
 さっきから、超絶に会話が噛みあっていない気がする。
 アイザックはようやく我に返った。
 どうも、俺と氷河が同じ言語を使ってしゃべっているように聞こえない。氷河の方も、恥ずかしがることも緊張も忘れて怪訝な顔をしている。
 お互いに枕を抱えてしばし黙り込む。
「あのさあ……ちょっと確認したいんだが、お前は『一緒に気持ちよく』ってどうするわけ」
 何だよ、またそこへ話を戻すのか、と頬を膨らませかけた氷河の腕をとって、少し近くに引き寄せながら重ねて言う。
「いいから。俺、どうもよくわかってないみたいだし、わかってるお前の方が俺に教えてくれ」
 アイザックに正面切ってそんなふうに言われて、氷河はまた顔を赤くしてもじもじし始めた。
「言わせるなよ、こんなこと……だから……キ、キスとかするだろ……」
「うん」
「そ、それから……」
 氷河はそこで言いよどむ。
 目線で、わかるだろと問うが、アイザックは大真面目で、わからない、という顔をして見せる。
 赤くなっていた氷河は内緒話をする時のようにアイザックの耳元へ手をあてた。
 アイザックは少しドキリとする。ほのかに香る甘い香りや、氷河の体温が、今しがたのなんだかよくわからないやりとりから急速にアイザックをまた色欲の世界に引き戻す。
 氷河はここには二人以外に誰もいないのに、うんと声を潜めて言った。
「あの……だ、抱き合ったりして、それから、お互いのを……さ、触る」
 アイザックは、うんうん、それで?という顔でその先を待ったが、氷河は、ああ、言ってしまった、くそ、恥ずかしかった、と一仕事終わったような顔をしている。
「いや……俺が知りたいのはその後だ。触ってどうすんだ」
 アイザックは焦れて促したが、氷河はキョトンとしている。
「触って……?触ったら気持ちいいだろう?」
 ……。
 ……。
 ……そ、それだけか!!!
 まさか、お前の考えてた『一緒に』ってのは、一人でやってるアレの延長みたいなもんか!
 たったそれだけのことで、覚悟決めてきました、みたいな悲愴な顔をしてたのか、お前は……。あんだけ、緊張されてたら、こっちはもうそのつもりだと思うだろう、普通。まさか、それだけ、とは。
 だめだ、俺、もう今日は立ち上がれない。
 突如として、脱力して布団に突っ伏してしまったアイザックを氷河は心配そうにゆする。
「アイザック?アイザック?なに?そんなに、ショックだったのか?やっぱり、いくら好きでもそういうことをするのは変なのか?」
 ショックだった……この一カ月間、ものすごく色々期待してアレコレ想像を膨らませていた俺は一体……。
 だよな。お前が色事に詳しいわけがなかった。
 アイザックはすっかり力が抜けてしまっているのだが、心のどこかでホッとしてもいた。
 氷河が変わってしまったんじゃなくてよかった。
 誰かに教えてもらったんじゃなくてよかった。
 やっぱり、氷河は氷河だ。
 初めて、本当の、挨拶じゃないキスをしたとき、こわいと言って泣いた氷河がまだここにいた。
 途端に、笑いがこみあげてくる。
 氷河の、あの緊張ぶりと言ったら……!
 たったそれだけのことのつもりで、あんなに緊張してたのかと思うと、おかしくておかしくて笑いが止まらなかった。
 笑うと、アイザックの肩の力もすっと抜けて行くのを感じる。
 ああ、どうやら俺も相当に緊張してたみたいだ。お前のこと笑えやしない。
 笑い出したアイザックに氷河は頬を膨らませる。
「バカにしてるだろう、今」
「違う違う。自分で自分がおかしくなっただけだ。俺が思ってたのとちょっと違ったから」
「アイザックはどう思ってたのさ」
 アイザックは、笑いを含んだまま、身を起こす。
「教えてやらない」
「!俺には言わせたくせにずるいだろ!俺も知りたい知りたい!」
 俺がお前をどうしたいか知ったら、多分、びっくりするだろうなあ。
 また、こわいと言って泣くかな。
 もう会ってくれないかも。
「だいたいお前と一緒だよ。たいした違いじゃない」
「嘘だ。もしかして、俺、何か間違っているのか。お前が教えてくれないなら、帰ってから、誰かに訊くから!瞬とか……いや、紫龍かな、あいつ物知りだから」
「頼むから、ほかの奴には絶対に聞くな」
 アイザックは氷河の腕を引いて後ろから抱きしめる。鼻先を少し湿ったままの氷河の髪へうずめる。
「だってお前が笑うから」
「絶対に、俺以外とそんな話をするな。会えない間、俺がどれだけつらいかわかってるのか」
 怒ったような真剣な声で言われて、さすがに氷河もちょっと黙る。ゆるゆると腕を持ち上げて、落ち込んだように氷河の首筋に顔を埋めているアイザックの頭をよしよし、と撫でてやる。
「俺だって、つらい。……お前、なんだかあっちに馴染んでしまって俺の知らない人間になったみたいだし……だから……俺、またむかしみたいにアイザックの特別になれたらと思って、だったら恥ずかしいのくらいは我慢しようと思って……」
 ……だよなあ。
 そういうのに疎いお前が、誰かに訊くわけにもいかなくて、でも、どうにかしたくて、自分なりに精いっぱい考えたんだよな。俺のために。
 こんなに俺のこと好きだと言ってるヤツを、つまらない嫉妬や一時の劣情で傷つけたら男がすたる。
 正直、まだちょっと未練はあるけど、今日はもう諦めた。
 どうやら俺も相当に気負ってたみたいだし、俺たちにはまだ早かったんだ、きっと。
「お前は今も昔もずっと、俺の特別だよ」
「……うん」
 慌てずにゆっくり行こうと決めると、不思議なもので、急速に体の中心に熱が集まり始めた。
 よく見たら、さんざん枕を投げて暴れた氷河の浴衣は乱れて、襟元は肌蹴ているし、裾からは静脈が透けて見えそうなほど白くて柔らかそうな太ももがのぞいている。そんなおいしい光景にすら気づけないほど今までテンパっていた自分がおかしい。
 初めての時、緊張しすぎてできないってこういうことか。氷河が初心で助かった、のかな、俺。
 いいや、もう。
 いつ、その時を迎えるか、なんて、今後はなりゆきまかせだ。

 アイザックは氷河のうなじに唇を押し当て、きつく吸い上げた。白い肌に赤い徴が刻まれる。
 次に会えるのがいつになるかわからない。
 できるだけ長く残るように、うなじから背中へと位置をずらしていくつもの紅い華を咲かせていく。
 お前は俺のだ。誰にもやらない。
 氷河の柔らかい耳朶を口に含む。ちゅくちゅくと扱くように吸いあげて口に含んだまま囁いた。

「一緒に気持ちよくなろうか」

 氷河は少しだけ竦んだが、やがて、微かに頷いた。

 肌蹴た浴衣の襟元から手をさし入れて、滑らかな肌に手を這わせる。湯上りで、掌に吸い付いてくるようにしっとりと濡れた肌を撫でまわすと、たったそれだけで、氷河は困ったように身じろぎした。掌の下で肌が粟立っているのがわかる。
 胸に指をすべらせて、かすめるように突起を撫でると、桜色の唇が、一瞬、あ、と開かれた。
 アイザックの指の下で、それはぷくりと小さく立ち上がる。親指の腹で押しつぶすように何度か往復させると、次第に固く尖りはじめた。
「感じるんだな?」
「言うなよ……」
 アイザックは反対側の手で、浴衣の裾を割って、下肢に手をやった。氷河のものは既にしっかりと反応を返している。氷河は恥ずかしそうに目を逸らした。が、その拍子にアイザックの体が目に入る。アイザックの方も硬く勃ち上がったものが浴衣の前を押し上げている。
「お前だって。まだ何もしてないのにもうこんなだ」
「だって、お前、エロいもん。脱いで、全部見せろよ」
「……じ、自分で?」
「自分で」
「こ、こっち見るなよ」
「ばーか。見るに決まってるだろうが。いっぱいお前の姿を刻んで帰りたいんだよ。いいだろ?」
「帰る」という言葉に、氷河は、そうか、俺たちには限られた時間しかないんだ、と思い至り、おずおずと、しかし迷いなく、着ているものを全て脱ぎ落していく。
「お前、ほんと綺麗だよなあ」
「嘘だ。傷だらけだし、なかなか肉がつかないってお前だって笑っていたじゃないか。……アイザックも脱げよ。俺ばっかりはいやだ」
 いいよ、と同じようにして、遮るもののなくなった肌を触れ合わせてそっと抱き締める。
 シベリアで何度も一緒に風呂に入ったはずなのに、改めてこうするとなんだか気恥ずかしい。照れくささを隠すように、お互いの肌に残る傷痕を指でなぞりあう。これは、あの時の傷、これは新しい傷、これは……。
 やがて数えるべき傷痕もなくなる。
 アイザックは氷河の唇へ口付けを落とした。再び指で氷河の胸の突起を刺激しながら、言った。
「氷河。自分でして見せてくれ。いつもしてるみたいに」
 言いながら、氷河の手を勃ち上がった氷河自身へ誘導する。
「それは……」
「大丈夫。恥ずかしいなら見ないでやるから。(嘘だけど)」
 アイザックが、氷河自身へ添わせたその掌を包み込むように自分の掌を重ねて、ゆるゆると二度三度扱いてやると、氷河は、ああ、と声を漏らした。アイザックが掌を離しても、遠慮がちながらその手は上下に動かされ続けた。
 アイザックは氷河の首筋に舌を這わせる。鎖骨を辿り、胸へとおり、そこへも幾つも所有印を刻む。
 アイザックが吸い上げるたびに、氷河は喉を反らせて声をあげた。
 赤くぷっくりと尖った小さな突起を口に含む。
「……あ!そんなとこ……!」
「感じてるくせに」
 アイザックはそれを唇で摘み上げるように食み、舌でピンと弾く。軽く歯を当てると、それはますます固く尖った。下の方からくちゅくちゅという水音が響いている。
「……っあ……んっ……」
「気持ちいいか?氷河」
 氷河はガクガクと頷く。切なげに眉を下げて、潤んだ瞳でアイザックを見る。
 あー、その顔はやばい。
 コレだけでも十分達けそう……
 アイザックもすっかり反り返った自分のものを握って上下に扱きたてる。
 氷河の腰を抱き寄せて、二つの雄を重ねるように手のひらに包んで、激しく動かす。熱い昂りを直接感じ、自分のペースと違う速さで刺激されて、氷河は悲鳴のような嬌声をあげる。
「……そ、れ、まずい、すぐ……っく……!」
「いけよ。いくときの顏、俺に見せてくれ」
「やあっ……ああっ……や……や……アイザック……キス、キスを……」
 いく瞬間にキスしてて欲しい、なんて、お前、可愛すぎるだろ!
 思わず氷河の唇を咬みつくように塞いで、アイザックはさらに強く速く扱きあげた。
「……───っ!!」
 重なった唇の間でくぐもった悲鳴が漏れ、氷河は掌の中に白い精を吐き出し、同時にアイザックも精を散らした。

 二人でどさりと布団に倒れ込んで、汗ばんだ体ではあはあと荒い呼吸を整えるように肩で大きく息をする。
 まだ息も整わぬうちにアイザックは半身を起こし、肘で体を支えると、氷河の顏をのぞき込んでキスを落とした。
「よし、もう一回」
「ええっ。ちょ、ちょっと待て……!」
「待てない。俺もう一ヶ月も待った」
「そ、そんなこと言われても今いったばかりで……」
「我慢してるんだから、せめて回数こなさせてくれ」
「え?我慢って?何がどう『せめて』なんだよ。あっ……ちょ……ちょっと、俺、まだ、無理……!」
「俺は無理じゃない。お前より若いからな」
「同い年じゃないか!」
「俺の方が一ヶ月年下だろ」
「そ、それだけの違いで!」
「それだけの違いが今ものを言ってるだろ」
「う、嘘だ、それはなんか色々嘘だ!あっちょっと……!あ……や……」
「ほら、お前も無理じゃない」
「も、もう……!あっ……ん……っ……」

**

「まだ怒ってんのか」
「……」
 翌朝。
 向かい合って、正座で座り込み、頬を膨らませている氷河、と、気まずそうに宥めるアイザックの姿がそこにはあった。
「悪かったって」
「……」
「ついやりすぎた。ほんと、ごめん」
「……」
「機嫌直せよ。な?」
「……」
「……でも、お前も感じただろう?」
「!!だ、だ、だからって、あんなとこをお前──!?」
 感じたことは否定しないんだな。
 アイザックは俯いて笑いを堪えた。
 自分の名を呼んで、すがって乱れる氷河があまりにも濃艶に誘うので、誘われるに任せて、つい、自分が引いたばかりの境界をほんの少し逸脱した。あわよくば、と、未練があったのは事実である。
 いかせて、いかせて、と譫言のように涙声で強請る氷河の秘所にほんのちょっぴり舌を這わせた。氷河は、ありえない個所への熱く濡れた刺激に、全身をびくっとわななかせ、だが、ああっと叫んでそのまま達した。
 結果、目が覚めても口をきいてくれない氷河の出来上がり、である。
 あれっくらいのことで、そんなになってるんだったら、本当は俺がどんなつもりでここにいたか知ったら血管キレるな、こいつ。
「悪かった。もうしないよ。(しばらくは)」
「本当か?」
「ああ、しない。(俺の限界がキレるまでは)」
「……アイザック、しれっと嘘言うからな……」
 なんだ、さすがによくわかっている。
「本当にしないって。(嘘だけど)な?せっかく会ってるんだから……怒った顔のお前も可愛いけどさ、なるべくなら笑顔を見せてくれよ」
 そう言われて、長いこと拗ねていられる氷河ではない。ようやく表情を緩ませて少し笑った。
 アイザックは氷河の手をひいて、胸に抱いた。
「……アイザックは気持ちよかったのか?」
「ああ、よかった」
「でも、俺あんまりしてやれてない」
「お前が気持ちよさそうな顏みたら俺も感じたからいい。帰ってからも思い出して当分楽しめる」
「!ばっばかじゃないのか!」
 氷河はアイザックを突き飛ばしたが、アイザックが氷河の手を握ったままだったので、自分も一緒に布団に倒れ込んだ。
 アイザックの上に乗りかかるように倒れ込んだ氷河の腰に腕をまわして、唇を塞ぐ。
「……次はいつ会えるだろう」
「またすぐ会えるさ」
「うん……」
「このままもう一回するか?」
「……ばか……」
 バカと言ったくせに、もう一度、氷河の方から唇が重ねられる。
 アイザックは氷河の柔らかい金髪を掬うように指に絡ませながら深く口づけ、氷河はそれに応えかけ……たが、その時、扉からノック音が響いた。
「お客様、朝食を運ばせていただいてもよろしいですか?」
 やっぱり!
 そろそろ来ると思ってたよ!
 二人で顏を見合わせて吹き出し、声をそろえて言った。
「どうぞ!」

(fin)
(2012アイザック誕 2012.1.17~1.18UP)