寒いところで待ちぼうけ

短編:ザク


遠距離恋愛中なアイザック×氷河


◆Distance ep1◆


 どんなに遠くからでも、どれだけ大勢の人ごみの中にいても、あの、太陽に向かって咲く向日葵のような輝くハニーブロンドはいつでも見分けられる。
 少し跳ねた毛先が、その少年を年齢より子供っぽく見せている。
「アイザック!!」
 向こうでもこちらの姿を見つけたようだ。飛び上がらんばかりの勢いで手を振りながらこちらへ駆けてくる。
 ああ……人ごみの中をそんなに走って……ほら、やっぱりぶつかった。
 氷河が自分の元に辿り着くより、自分が氷河の元へ行く方が早い、と判断し、アイザックは足早に到着ロビーを横切った。


 アイザックから、任務の合間に日本に立ち寄る時間が取れる、と氷河が電話をもらったのは先月のことだ。
「ほんとか!?」
「ホント。すぐ南太平洋のイオのところに行かないといけないから、1日だけだけど。でも、偶然だけど、ちょうどお前の誕生日に行けるから」
 氷河は色々複雑だ。
 アイザックに会えるのは嬉しい。
 1日しか会えないのは哀しい。
 でも、離れ離れになっている原因のそもそもは自分の愚かさにあるわけだから、寂しいと不満を漏らすこともできない。
 一瞬のうちに散々気持ちが浮き沈みしたが、結局、「偶然だけど」と言いながら全然偶然などではなく、きっと無理をして寄ってくれるに違いない彼のやさしさを思い、素直にありがとう、と喜んでおいた。
 きっとアイザックは、ものすごく苦労して日程を調整したに違いない。でも、決して、自分からは恩着せがましくそんなことは言わない。
 昔はアイザックの見えないやさしさに気づいていなかった。しかし、今は、そのことに気づける程度には大人になっているつもりである。
 アイザックのその気持ちだけで、誕生日を待たずして、もうプレゼントをもらったかのように心がじんわりと温かくなった。


 ようやく混雑する空港の人ごみを抜け、出迎えに来た氷河の元に辿り着くと、氷河は少しはにかんだ笑顔で抱きついてきた。氷河の髪が頬に触れ、少し甘い香りが鼻腔をくすぐる。
 あ、コイツ、シャンプー変えたな。
 シャンプーの種類なんか、気にするようなヤツじゃないのに、誰の影響だろう、と少し胸がざわめく。
 氷河はアイザックの荷物を半分受け取り、一緒に歩きはじめる。
「久しぶり」
「ああ……お前、背、伸びた?」
「そうか?自分ではわからない」
「伸びてるよ、確実に。だって、俺も伸びてるのに、視線が前と同じじゃないか」
 そう言って、アイザックは氷河の頭に手を乗せた。
 幼い頃から、二人はほとんど同じ体格だった。アイザックが伸びれば氷河も伸びる。氷河が伸びればアイザックも伸びる。抜きつ抜かれつしながら同じように成長してきた。離れて暮らしている今もそれは変わっていないのだと、二人の絆が失われていないようで嬉しくなる。
 しかし、その一方で、あんなに毎日一緒にいたのに、たまにしか会えないというそのことが、全てが変わってしまった証のように思え、胸が苦しくも切なくなる。電話越しで聞くことが多くなってしまった声は、直接こうして聞くと、コイツこんな声だっけ、となんだか違う人のものに感じて、違和感を拭い去れない。機械越しに聞く声が本当の声であるはずはないのに、機械越しにしか声が聞けなくなってしまったことが寂しい。
 離れていた間の溝を埋めるように、アイザックは氷河の手をひいてかすめるように唇にキスを落とした。
 氷河は、こんなところでもう?というように周囲に視線を彷徨わせて頬を染める。
 ばかだな。
 堂々としてたらこんなキスぐらいで誰も何も思うもんか。
 そんなところは変わっていない、とようやく自分の知る氷河に会えてアイザックの心はほっとほどけた。


 アイザックが宿泊するホテルへチェックインを済ませて、二人で街へ出る。
 アイザックが右手を差し出すと、氷河は、周囲の視線を気にするそぶりをしたが、それも一瞬で、素直にその手を取った。
 懐かしい体温を感じて、二人で目を見合わし、笑みをかわす。
 会ってすぐに感じた違和感は、時間がたつにつれて取り払われて行く。
「誕生日だし、お前に何か買ってやるよ」
「えー、いいよ。別に。会いに来てくれただけで十分」
「言うと思った。お前、昔から物欲なかったよな。淡白というかさ……」
「クール、だろ」
「いやそれは違うだろ、どう考えても」
「じゃあさ、俺もアイザックに何か買うよ。お前だって来月誕生日だろ」
「俺こそ、別にいい」
「ほら。お前だって一緒じゃん!」
「クールだからな」
「違う!」
 二人でじゃれ合うような会話をかわしながら、雑踏を歩く。
 自分と同じくらいの年ごろの若者であふれる街を歩いていると、まるで自分たちも、普通の若者としてずっと生きて来たかのような錯覚に包まれる。
 互いに本気で命を奪い合ったことなど、まるでなかったみたいだ。
 流行りの音楽が煩いほど鳴り響く店を冷やかしながら、年相応にはしゃぎ、声をあげて笑い、好きなだけバカ話をする。周囲の人間にとっては、退屈な日常の一コマにすぎないだろうが、二人には本来なら訪れるはずがなかった、何物にも代えがたい、幸せで温かい時間だった。
 氷河はアイザックと目が合うたびにくすぐったそうに笑い、いつもにまして甘えた声でその名を呼んだ。
 好きなだけ店を見て歩き、結局二人はお揃いの携帯ストラップと、こちらは色違いのニット帽をそれぞれ買って贈りあった。離れていても、同じものを身に着けている、と想像するのもまた楽しい。

**

 幸せな時間はあっという間に通り過ぎていく。
 日が暮れ、街の喧騒の種類が変わりはじめると、氷河の口数がだんだん少なくなってきた。
 星が見えないほど煩く瞬くネオンの海を歩きながら、残された時間を少しでも引き延ばそうとでもいうかのように、歩みも遅くなる。
 お前、城戸邸まで帰るんだろ。電車の時間大丈夫なのか。
 そんな言葉がアイザックの喉のあたりで止まっている。
 さっきから、アイザックの手を握る氷河の指が、落ち着きがなく揺れ動いている。
 わかっている。氷河の言いたいことは。
 自分だって同じ気持ちなのだから。
 こんなに愛しいのに、またすぐ離れてしまうのに、もっともっと一緒にいたいに決まっている。
 でも、自信がない。
 今、二人きりになったら、思う存分抱きしめたくなるし、そうしたらキスだってしたい。
 でも、キスしたらきっとそれだけじゃ止まれない。
 氷河がアイザックの指に自分の指を絡ませてくる。
 足の運びがゆっくりになり、やがて止まる。

 だめだ。
 コイツの顏を見たら、多分負ける。
「アイザック……」
 そんな声出しても駄目だ。
「俺……」
 声がうるんでたって絶対に駄目だ。
「……なあ……」
 …………。
 …………。
「俺はホテルに帰る。………けど、お前も来るか?」

 負けた。

 案の定、氷河はパッと顔を輝かせ、やった!いいのか?と飛びつかんばかりの勢いで喜んだ。
 ああ、俺は今、自分の首しめた。確実に。

**

 ぱんつ買わなきゃ!と声をあげる氷河を、俺の予備があるから、と押しとどめて部屋の鍵を開ける。
 ぱんつ、ぱんつと喜んでホテルについてくるレベルのヤツに、キス以上のことなんてできるわけない。アイザックは氷河に気づかれないようにそっとため息をついた。
 俺一人拷問のような時間を過ごすことになるだろうが、それで氷河が喜ぶなら仕方ない。
 こうなることを想定してなかったわけではないが、そこまで用意周到にしとくのもおかしい話だと思ったので、部屋は当然シングルである。
 氷河は嬉しそうにベッドに飛び乗り、一緒に寝るの、久しぶりだな!風呂も一緒にはいるか?とはしゃいでいる。
 冗談じゃない。
 一緒にも寝ないし、風呂だって一人で入れ。
 しかし、氷河は気にしなくてはいけない人目がなくなったものだから、ここぞとばかりにアイザックにくっついてくる。シベリアでもそうだった。カミュの目があるうちは、ちゃんと修行をがんばっています、と大人びた表情でいるくせに、カミュがいないとすぐにアイザックに甘えてきていた。もっとも、それを待っていたところもあるからアイザックも同罪なのだが。

 氷河は、ベッドの端に腰掛けたアイザックの背に抱きつくようにのしかかり、腕をまわして今日一番の甘えた声で言う。
「来てくれてありがとう」
「……ああ」
「アイザック、だいすきだ」
 ……知ってる。
 でも、多分、お前の『大好き』と俺の『大好き』は多分ちょっと微妙に違う。
「……なんか怒ってるのか?」
「怒ってないって」
 ごまかすように、昔よくそうしたように戯れに拳を繰り出す。なんだよ、急に、といたずらっ子の顔になった氷河もそれを受け止め、しばらくベッドの上で取っ組み合う。
 上になったり、下になったり、互いに主導権を譲らない。
 途中から息があがって形勢が悪くなりはじめた氷河が、拳のかわりにアイザックの脇腹をくすぐった。
「なんだ。そんなのありか」
 そう言って、アイザックは氷河の両腕を片手で纏め上げると頭上でベッドに縫い留め、馬乗りになって、空いた手で氷河の脇腹を思いきりくすぐった。
「あはははっ、や、やだ、アイザック、それは、ちょっ」
 氷河は息ができないほど笑い転げている。くすぐりに弱いのは自分の方のくせに、先に手を出すからだ。アイザックはさらに氷河が弱い首筋にかるく歯をあてた。
「はははっ……ああっ……やだって……も、もうだめっ……ああっ……ん……」
 瞳に涙を浮かべて身をよじって悶える氷河の声に、わずかに艶っぽい色が混じり、アイザックはハッと我に返った。

 ……自分で墓穴を掘ってどうする!
 だめだ。俺はもう色々やばい。

「じゃ、俺の勝ちということで!風呂はいってくる!」
 氷河の上からするりと飛び降り、アイザックは逃げるように浴室へ向かう。
 湯船に勢いよく湯を張りながら大きく肩で息をした。

 シベリアにいたときから、全く進歩してない。
 むしろ悪くなっている。
 氷河はいつからあんな艶っぽい声をあげるようになったんだ。
 アイザックは氷河に抱いたほのかな恋心を早くから自覚していたが、氷河の方はいまいち怪しい。
 だいすきだ、とは言っている。
 キスも何度もした。
 でも、氷河は『よくわかってない』ように思えてならない。
 手をつないだりキスをしたりするのですら、恥ずかしがって頬を赤らめる氷河なのに、ぱんつ、と言いながら嬉しそうにホテルに着いてきてしまう無防備さがいい証拠だ。
 泣かせたくない。
 だから、俺は今のままでいい。
 必死にそう自分を言い聞かせながら、湯船に体を浸して気持ちを静めていると、いきなり浴室のドアが開いた。

「俺もはいる」

 しまった、鍵をかけとくべきだった……

 時すでに遅し。
 氷河は呑気に、シベリアを思い出すな、といいながら、次々に洋服を床に落とし、湯船に入ってくる。
 アイザックは目を閉じて、必死に違うことを考えようとしているのに、氷河はアイザックに向かい合うように膝を抱えて腰をおろした。
「……ほんとに怒ってないのか?なんか変だ、アイザック」
「別に……普通だろ」
「そうか?でも……今日はまだキスしていない」

 だぁぁ!
 この状況でそういう話を持ち出すな!

「……しただろ。会った時に」
「あれはだって……違うだろ……」

 その違いは分かるんだな。
 喜んでいいような悪いような。

 長い時間二人で黙って湯船に座り込んでいたが、もしかして、泣かしたか、と気になってアイザックは恐る恐る目を開けた。
 湯気で霞む視界の向こうで、氷河が拗ねたようにじっとこちらを見ている。弱く出したままだったシャワーが霧雨のように氷河の髪を濡らしている。
 その滴が玉となって、氷河の白い肌の上をすべって、湯の中にポタリ、ポタリと落ちて行く。
 濡れた髪が、拗ねてふくらんだ頬にはりついている。
 扇情的な光景に、心臓が跳ね、躰の中心に小さな火が熾る。

 ……知らないからな。俺は。

 この状態の氷河が頑ななことを知っているアイザックは、それ以上の抵抗を諦めた。
「わかった。こっちこいよ」
 アイザックが手をのばすと、氷河はそれをぎゅっと掴んだ。
 手を引いて、氷河の細い腰を抱き、自分の膝に向かい合わせに跨らせる。
 その動きで湯が大きく波打つ。
 氷河はアイザックの首に腕をまわして、アイザックをじっと見つめてくる。その肌は桜色に染まり、唇は、すでに誘うようにしどけなく開かれている。

 お前、エロすぎ。

 堪らずアイザックは氷河の身体を抱き締め、その唇を塞いだ。
 濡れた唇を数瞬だけ味わい、これでいいだろ、と素早く離れると、今度は氷河の方から、駄目、もっと、というように深く重ねられる。濡れた粘膜どうしが擦りあわされるちゅくちゅくという音が浴室に響き、それだけで既にアイザックの中心は硬く張りつめてきた。
「は……あ……」
 口付けの合間に、甘いため息が氷河の唇から洩れた。と、同時に抱きしめた身体の間で、アイザックの腹に自分のものではない熱く硬い感触が当たった。
 それに気づき、驚くと同時に、火照った体にさらに火がつく。

 俺と同じ熱をお前も感じているのか。

 アイザックはそれを確認するかのように氷河のものにそっと触れた。
 氷河はわずかに身を竦めたが、すぐに、熱っぽい瞳で見上げ、掠れた声で、だって、アイザックのキス気持ちいい……と言い訳するように呟いた。

 もう駄目だ。
 これでキスだけで終われるわけがない。
 お前、わかってるのか、わかってないのかどっちなんだ、一体。

 アイザックは氷河の耳朶を柔らかく口に含み、そのまま低く囁いた。
「氷河、もっと気持ちよくなりたいか」
「んっ、あ、あ……」
 耳を震わせる振動が背筋を駆け下り、下肢に伝わり、思わず肯定とも否定ともつかない声が漏れる。腰から下が痺れたように力が入らないのに、中心は体中の血液が集まったかのようにどくどくと熱く脈打っている。
「どうする……?」
 氷河はアイザックが耳元で囁くだけで、身体を震わせる。
 アイザックはそのまま耳から首へと唇をすべらせたが、そのとき、氷河の身体がぐらりと揺れてアイザックに寄りかかってきた。
「……?あれ……のぼせた……かも……」

 …………。
 嘘だろ、マジか!
 この状態で俺にどうしろっつうんだよ!!
 男は急には止まれないんだぞ!!



 ほとんど残っていなかった理性を総動員して、氷河を抱き上げてベッドへ下ろす。
 自分はバスローブを羽織り、氷河には浴衣を着せてやる。と、言っても着せ方がよくわからないので、巻きつけただけだ。
 この紐はなんのための紐だ。腰に結わえるので合っているのか。だとしたら胸元とか裾が無防備に開くのはどうしたらいいんだ。こんな目のやり場に困るものを日本人は日常的に着ているのか。なんていやらしい民族なんだ。そうか、だから氷河はあんなに素でエロいんだな。
 日本の民族衣装の不合理性と戦いながら、おあずけをくらわされた苛立ちも手伝って、思考が若干攻撃的になってしまうアイザックだった。
 しかし、その手は忘れずに氷河を仰いでやる。
 氷河はすっかりくったりとのびている。アイザックは冷蔵庫から冷えた水をとってきて、迷わず自分の口に含み、氷河の口に少しずつ移してやる。
 氷河は薄く目を開き、もっと、と何度もねだった。
 アイザックはベッドに乗って、氷河の隣に横たわった。仰いでやると、気持ちよさそうに氷河は薄く笑った。
「アイザック……すきだ」
「もう聞いた」
「ずっと一緒にいたい……」
 ああ……もう。
 お前、外ではあんなにクールを気取っているくせに、なんで俺にはそこまで無防備なんだ。その素直さが自分にだけ向けられているということが、またたまらなく愛しい。
 氷河の髪をゆっくりと梳くように撫でてやる。
 氷河はもっといっぱい会いたい、と目尻に涙をにじませながら、すうすうと寝息をたてはじめた。

 やっぱりな。
 どうせこういうオチだと思ってたさ。
 思ってたけど、期待するだろ。こっちだって久しぶりに好きな相手と会ってんだから。

 氷河の目尻の涙を親指の腹で優しくぬぐってやる。
 結局泣かせたな。
 泣かせたくないけど、もっとめちゃくちゃに泣かせたいとも思う。
 氷河がアイザックの腕をつかんだままなので、アイザックは身動きもできずに、その寝顔を長い間見つめていた。


**

「あのー……怒ってる、よ、な?」
「怒ってない」
「うそだ。アイザックさっきから目を合わせてくれない」
 それは明らかに寝不足顔の自分が情けないからだ。
 アイザックの腕の中で氷河が身じろぎするたびに、密着した肌から伝わる熱にもんもんとしてしまい、一睡もできなかった。
 結局、俺はもっと先に進んでも良かったのか、止まってよかったのか。
 一晩、寝顔を見ながら考えて、答えはわからないまま、見送りの空港出発ロビー、である。
 アイザックもともかく、氷河の方もこれ以上はないほど気まずそうな顔で、一生懸命アイザックのご機嫌とりをしている。しかし、氷河にそうされればそうされるほど、昨夜の自分が情けない気がして、アイザックもなかなか素直になれない。
「ホントにごめん……。せっかく来てくれたのに、俺だけさっさと先に寝ちゃって……」
 しかし、出発時間がせまってきていた。
 こんな状態の氷河を置いては帰れない。
 アイザックはようやくきちんと氷河に向き直って、その頭をポンポンと撫でた。
「大丈夫。怒ってないから、ほんとに。お前のかわいい寝顔も久しぶりに見れたしな。俺はお前の誕生日、一緒に過ごせてうれしかった。お前は?」
「そんなの嬉しかったに決まっている!……だから余計に……」
「しつこいぞ。俺は怒ってないって」
 氷河は顔を赤くして俯いていたが、ちらりと頭上の電光掲示板を見て『搭乗案内中』の表示を見ると、アイザックの耳元で早口で言った。
「そうじゃない……残念だった。俺、アイザックと一緒に気持ちよくなりたかった」

 えっ。
 それはつまりええと。

「じゃ、アイザック、元気で」
 言い逃げで背を向けようとする氷河の手首を慌てて掴んで引き寄せる。アイザックは氷河の首根っこを押さえつけて低く言った。
「お前言った意味わかっているんだろうな!?」
「さ、さあな」
「またすぐ会いに来るからな。次はやっぱりいやだとか泣いてももう止めてやらないぞ」
「……ほんとに『すぐ』じゃないと気が変わるかもしれない」

 こ、の……!お前……!

 アイザックはお揃いのストラップが揺れる携帯を取り出し、早速スケジュールを確認しはじめた。

(fin)
(2012氷河誕 2012.1.23up)