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◆寄り道◆
聞き慣れた、階段を上る足音が近づいてくる。目的地に着くのが楽しみで仕方がない、というような、弾んだ足音だ。
足音で正確に距離を測り、ミロは柱の陰から、絶妙なタイミングで行く手を遮るように姿を現した。
「久しぶりだな、氷河」
ほとんど小走りのような勢いで駆け上がってきた氷河は、急に現れたミロに驚いて止まろうとするが、止まるにはミロとの距離は近すぎた。勢いを殺し切れずに、ミロの胸に飛び込む形になってしまう。
「おや、今日は積極的だな。自ら俺の胸に飛び込んでくるとは」
「な、なに言って……!ミロが急に出てくるからじゃないか!」
氷河は顔を赤くして、ミロから離れようとしたが、その時にはもう既にミロの腕は氷河を包み込むように腰にまわされていた。
氷河の額がうっすらと汗ばんでいる。もしかしたら白羊宮からずっと休みなしで駆け上がってきたのかもしれない。
カミュに会うためなら必死だな、と呆れと嫉妬交じりにミロは息をつく。からかいや軽薄な台詞に本音を隠すようにして、やや強引に足止めはさせても、師弟の間の強固な絆を知る以上は本当の意味で二人の間を割くような真似はしない。いつもなら。
今日はだが事情が違う。氷河が来る数刻以上前に、白いマントを翻しながら十二宮を下って行っていた背を思い出し、氷河の額の汗に目をやって、ミロは、フ、と口元を綻ばせた。
ミロは氷河の額にあいさつ代わりの軽いキスを落とし、ついでにペロリと舌を這わせる。
「しょっぱいな」
「……やめてください。今更、何されてももう驚かないけど!」
驚かない、と言った割には舌が触れた瞬間、びくりと体を固くしていたことを思い、ミロはクスリと笑った。
「言ったな?それは驚くような何かをされてもいいという意味か?」
「違うから!あなたはすぐそれなんだから……!」
「まあ、そう言うな。たまにはここでゆっくりして行ってもいいだろう。先を急ぐ気持ちはわかるがな」
氷河が、ちらりと上目づかいで何か言いたそうな顔をしていたが、それを無視して、ミロは氷河を自室へと引きずっていった。
「ほら、少し休憩しろ。どうせ下からずっと走ってきたのだろう」
ソファに座った氷河にコーヒーを差し出し、自分も隣へと座る。氷河は少し憮然とした表情で膝を抱えて座っている。ミロは苦笑した。まったく……気位の高い坊やだ。
「君はカミュのことになると周りが見えなくなりすぎる。俺のところで少し寄り道していくくらいの余裕があってちょうどいい」
「……そんなにカミュのことばかりというわけじゃない」
「いいや、違うな。自覚がないのか。みろ、こんなに……」
そう言いながら、氷河の額に汗で張りついた前髪を、指先で後ろへ流してやる。ミロに間近で正面から見つめられて、氷河の頬はうっすらと桜色に染まった。そして慌てたように視線をそらし、手元のコーヒーを一気に口に含む。
「っつ!」
まだ相当に熱かったのだろう、氷河はその熱さに驚き、カップを落としかける。
ミロが咄嗟に手を伸ばし、氷河の手のひらごとカップを受け止めたので、それ以上の被害はなかった。が、氷河は口の中を少し火傷したようだ。痛そうに顔をしかめている。
「バカだな。見せてみろ」
舌をチロリと出し、外気にあてて冷やしている氷河のおとがいに手をかけ、こちらを向かせると、確かにそこは少し赤くなっていた。
熟れた果実のような舌をつき出して口を開く様は……これで自覚がないのが怖い、それが男に何を喚起させるか、同じ男なら気づかぬはずはないだろうに。
無防備に開かれた唇に誘われ、ミロは赤くなった氷河の舌をぺろりと舐めあげた。
氷河は驚いて、咄嗟にミロの体を押し戻すが、それ以上の力でミロが氷河の腕をひっぱり、あっさりとその胸に抱き込んでしまう。慌てて閉じた唇を開いて舌をさしいれ、火傷したばかりの舌を中心に、獣が傷を癒すかのように何度も舐めあげられたかと思うと、唇を柔らかく食み、吸い上げられる。粘膜同士がこすれあうちゅくちゅくという水音が響く。
最初は突っ張っていた氷河の腕から力がだんだん抜けて行くのを確認すると、最後にひときわ強く舌を吸い上げ、ミロは唇を離した。
「……舌が痛い」
氷河は乱れた息もそのままに弱く抗議する。その言い方では、痛くなければしてもいいみたいだ、とミロは心の中で笑った。
「舐めておけばなおるだろう?」
そう言って、氷河のシャツのボタンをはずしていく。外気に曝け出された白い肌は既にうっすらと上気していて、そのことがミロの情欲を高める。ミロは氷河の鎖骨をなぞるようにゆっくりと舌を這わせた。
「っ……そ…こ、火傷とは……関係な……いっ」
「だが、熱くなっているぞ」
さらに、舌を下に向かってゆっくりと進める。
胸の赤い先端がツンと上を向いている。氷河のそこは最も感じる場所の一つであることを知っているが、わざとすれすれのところに、円を描くように舌をすべらせるにとどめておく。
氷河の呼吸は浅く早くなりつつあった。胸の鼓動の音も大きく聞こえている。
さらに白い肌の上を余すところなく舌と指先で蹂躙していく。
氷河の体はすっかり力なく、ソファの座面へと滑り落ち始めていた。
氷河の下半身に手をやり、布越しに輪郭を確かめるように愛撫してやると、すぐに硬く反応を返してきた。いつもより、やや反応が素直だ。受け入れる様子を見せていることに異論のあろうはずがない。
素直な氷河も悪くないな、と悦に入り、ご褒美とばかりにさきほどから焦らしていた胸の先端を吸い上げ、固く尖ったものに軽く歯をたててやった。
「……っ……ああっ……んっ……」
舌で転がすように嬲ると、さらに固さが増し、氷河の体がぶるりと震えた。押しつぶすようにそれに舌をあてながら、下も脱がしてやり、硬く立ちあがった氷河のものをゆっくりと扱いてやる。
「ふっ…あっ……ああっ……」
氷河がミロの腕にすがりついて、切なげにうめく。目尻に涙がにじんでいる。
ミロはさらに愛撫する指先に力を入れる。既に、氷河が零した滴で指先もぬるぬると濡れていて、ミロが掌を往復させるたびにくちゅくちゅと音がする。
「やっ……あっ……もう……」
氷河が、身をよじって、唇を開きミロにキスをねだってきた。いつになく積極的に自分を求める氷河が愛おしくてたまらない。
師弟の絆に感じる疎外感もこの瞬間だけは無縁。ミロの情欲は高まる一方だ。
要求通りに唇を塞ぎ、舌を絡ませながら、氷河のものをさらに責め立てた。
「……んっ……んんっ……ん──っ」
塞いだ唇の下でくぐもった悲鳴を迸らせ、氷河はミロの掌の中に果てた。
氷河の呼吸が落ち着くまで、ついばむようなキスを繰り返しながら待ってやり、ゆっくりと指先を双丘の奥へ進める。固く閉ざされたそこを、氷河のもので濡れた指先で慣らすように開いていく。爪で傷つけないように優しく内壁をこすってやると、また、氷河の息があがりはじめた。
ミロ自身もすでに解放を求めて限界まで張りつめている。だが、氷河を苦しませないよう、なるべく丁寧に解してやる。往復させる指の抵抗が少なくなったところで、さらに二本に指を増やし、内奥を抉った。
「んんっ……あっ……やあっ……」
氷河の声がだんだんと高くなり、その先を誘うように指先をミロの髪に絡めてくる。
氷河の体の中へ埋め込んだ指先を鉤のように折り曲げ、内壁をひときわ強く抉ると、氷河の目尻からは堪えきれなくなった涙が伝い落ちてきた。
精を放ったばかりの氷河のものに手をやり、中と外と同時に刺激する。氷河が切なげに首を振った。それを合図にミロはゆっくりと指を引き抜く。自分の中から去っていくそれを名残惜しむように襞がギュッと収縮して抗った。ミロは薄く笑い、氷河の両足を肩に抱え上げ、自身の昂ぶりを鋭く一気に貫いた。
「……っ……ああーっ……」
たっぷり慣らしたものの、指とは比べ物にならない質量と硬度に氷河が大きくのけぞり、その白い喉が上下した。しかし、もはや、ミロにも気遣う余裕はない。ミロはさらに深く交わりながら、その喉へと軽く噛み付くように食らいついた。
「……んっ……んっ……ああっ……ああっ……」
ミロの律動に合わせて、氷河も吐息と一緒に声を漏らす。その声に次第に悦びの色が混じり始めたことを確認して、さらに激しく揺さぶる。
「んんっ……ふっ……あ、あ、あーっ」
内奥の、氷河が最も感じる一点を大きく突き上げると、その身が震え、ミロの背中に回した指先にすがるように力が込められた。熱くどろどろにとろけそうになっている氷河の中がミロ自身にきつく絡みついてくる。
先ほど一度解放されたばかりだと言うのに、二度目の絶頂を早く、とねだるように氷河がミロの首筋にすがりつく。決して言葉ではねだらない。だが、全身がミロを求める叫びで溢れている。そのあまりに扇情的な姿にミロもどんどん煽られ、その動きを早めていく。やがて、氷河のそこがぴくぴくと痙攣しはじめ、ミロも、ひときわ強く腰を打ち付け、二人は同時に精を放った。
気怠げに体を投げ出してぐったりしている氷河を、ミロは後ろから抱き寄せ、髪をすきながら柔らかな耳たぶを食みながら囁く。
「寄り道も悪くないだろう……?」
氷河の返事はない。足止めが長引いたことで怒っているのか。ミロはため息をもらす。
そんなにカミュがいいのなら、俺を拒み通せばよいものを。中途半端な止めたてしかせぬくせに、悪いのは俺だけなのか?
お仕置きだ、氷河を少しばかり落胆させてやろうと、あえて今まで黙っていたことを告げた。
「カミュなら今日はいない。任務だ」
残念だったな、とその顔をのぞきこむ。が、氷河は表情を見せまいと顔を背けた。そして、ゆるゆると手を伸ばし、氷河を抱きしめているミロの腕をギュッとつかむ。
「……知っている」
意外な返事に、ミロは首を傾げた。
「ではなぜ宝瓶宮に行こうとしている?」
「俺は宝瓶宮に行くなんて、一言も言ってない」
「何?では、女神か」
女神のところへ行くのを邪魔したのならさすがにまずかったか、とミロは眉根を寄せたが、違う、と氷河はそれも首を振った。
「ならばどこへ行こうとしていた」
「どこでもない」
氷河は怒ったような口調で、ますますミロから顔を背ける。だが、柔らかい金色の髪の毛の間に見える白いうなじが朱に染まっている。その様子に、ああ、とミロは気づく。
嬉しくて仕方がない、というような弾む足取り。
十二宮の下から大急ぎで駆けあがってきました、という風情の額の汗。
カミュに向けられているのだとばかり思っていたそれらは全て───
ミロは指先で氷河の髪をかき上げ、桜色のうなじにキスを落とす。体全体で氷河を抱きしめて低く囁く。
「はっきり言わないか、氷河」
知っていていて聞くような意地悪な人には言わない、と氷河はますます背を向ける。
こうと決めたら貫き通すような少年だ。それを覆すのが楽しいのだが。
わかった、もう聞かない、俺には関係がないことだしな、とあっさりと彼を解放してやれば、氷河は、あ、と少し焦った声を出して振り向いた。
振り向いて、にやにやと口角を上げたミロの顏が間近にあることに気づいて、しまった、という表情を見せたが、肚をくくったのか、氷河は何度か深呼吸を繰り返し、そして最後は不貞腐れたように早口で言った。
「……誕生日、おめでとう、ミロ」
ふはっとミロは吹き出す。ストレートに、あなたに会いに来た、とは言えぬらしい。回りくどい、たったそれだけの一言ですら君にとってそんなに難しいとは。
ミロは氷河の額に口づけを落とす。
「よく俺の誕生日を知っていたな、と言いたいところだが惜しい。俺の誕生日は来月だ。……いや、再来月だったかな?先月だったような気もしてきたぞ」
「ず、ずるいだろう、それ!」
誕生日という口実でもなければ会いにも来ない君を待つならずるくもなるというもの。
「365日試してみたらいつかは当たるだろう?」
「あなたって人は…!だから俺は…っ」
顏を赤くして怒っている氷河を、はは、と笑ってミロは抱きしめた。
こんなに怒っているくせに、来月も、再来月も氷河は俺に会いに来る。そんな、気がした。
(fin)