性表現あります。18歳未満の方、閲覧をご遠慮ください。愛はありますがわりと無理矢理ですので苦手な方はご注意ください。
◆あまくて、あまい◆
カミュの小宇宙を宮の外に感じて、うとうととベッドで微睡んでいた氷河は半身を起こした。
あ、先生……?
一人きりで過ごす宝瓶宮を寂しいと思うほど幼くはないが、それでも、帰還はいつでも嬉しい。互いに聖闘士同士、一緒に過ごす時間はさほど多くない。
夜は更けているが、まだ日が変わる前の刻限だ。
戻りは明日以降になるだろうと言っていたカミュが、予定していたより早く帰還したことに心は浮き立つ。
カミュの小宇宙はどんどん近づいてくる。
出迎えるために氷河は夜着を着替えていそいそと宮の入り口へと向かう。
女神の護衛のため、数人の黄金聖闘士と共に、カミュは聖域を離れていたのだ。
ただの護衛なら一人で十分であるのに、どうやら、表立って護衛を連れていたのでは角が立つ相手が揃った夜会に出向く必要があったらしく、あからさまに護衛だとわからせないよう、カモフラージュが施されたようだ。
送迎の車の運転手として。
酒の入ったグラスを給仕して歩くボーイとして。
黄金聖闘士たちは時代めいた黄金聖衣を今回は封印し、うまく夜会に紛れたはずだ。
無論、カミュも。
女神をエスコートする大役を引き受けたカミュは、ドレスアップした女神にふさわしく品よく仕立てられた夜会服に身を包んで出て行った。
女神の小宇宙は感じないにも関わらず、カミュだけが戻ったということはやや腑に落ちないが、師が戻って不満があるはずはない。
宮の入り口まで急ぎ足で出てみれば、その夜会服に身を包んだカミュが石段を上ってくるところが見えた。
丈の長い深みのある黒のフロックコートに光沢のあるシャツ、幅広のアスコットタイ、その上、長い緋色の髪を後ろでひとつにまとめたカミュは、正直、ほれぼれするほど美しい。
黄金聖衣姿も、肩に流れる緋色の髪が白いマントに映えてしばしば氷河は見とれてしまうのだが、こんなの、反則だ、と思う。すっきりと通った鼻梁は髪をまとめたことでより涼やかに強調されていて、普段は見せないうなじがドキリとするほどの男の色気を滲ませていて、見慣れているはずの姿に、新鮮な胸の高まりを感じずにはいられない。
行ってくる、と、その姿を見せられたときは、行かないでください、と引き留めたくなったほどだ。
だって、こんな。
誰もがカミュに心を奪われるに決まっている。
なぜ女神は、というか、沙織はカミュを指名したのか。エスコートなら、サガでも、ミロでも、アフロディーテだってよかったはずなのに。
実際、エスコート役に指名された時、カミュ自身が、わたくしですか、と意外な声を上げたほど、適任はいくらでもいた。
沙織が、だってあの者たちは、わたしよりずっと派手に目立ってしまうのです、そんな護衛があるかしら、と首を傾げ、「あの者たち」にまとめられてしまったサガがしょぼくれていたけれど。
確かにどこにいても主役の輝きを放つ彼らに比べれば、カミュの佇まいは控えめではあったが、それでもこんなふうに正装して着飾ってしまえば、その輝きは大差ない。10人いれば、8人、いや、9人?10人ともじゃないといいけど、みんながみんな、きっとカミュを気に入ってしまうに決まっているのに、と氷河は沙織の判断を疑った。
実際のところは、緋色の瞳に緋色の髪、という目立つ容貌の割に、人混みにうまくとけ込んで脇役に徹する術をうまくカミュは心得ていて(それゆえに女神はカミュをと指名したのだが)、氷河の心配は恋する者の盲目さからくる杞憂に過ぎないのだが、本人にその自覚はない。独り相撲で勝手に妬いて勝手に焦れてしまうのだから大概である。
今もまた、普段よりややゆっくりした足取りで石段を上るカミュの洗練された仕草に氷河はうっとりと見蕩れて上気した。
「おかえりなさい、せんせい」
任務の時には、常に厳しくも険しい戦士の表情をしたカミュの頬が、そう言った瞬間、柔らかくほころぶ瞬間が氷河はすごく好きだ。
早くその表情が見たくて、氷河は、俯き加減となって石段を上っていたカミュが残り数段を上るのを待ちきれず、思わずそう声をかけた。
だが───
カミュは氷河の気配に気づいていなかったのか、少し驚いたように顔を上げ、まるで、嫌なものを見た、と言いたげに眉を顰めた。
ふわふわと浮ついていた氷河の心は冷水が浴びせられたように、刹那、凍りつく。
追い打ちをかけるように、カミュが「なぜここにいる」と氷のように冷たい声を出したことで、それは決定的なものとなった。
「あ……先生がお帰りだ、と思ったので、それで」
「出迎えなどいちいち必要はない」
視線を合わせようともしない、他人行儀な冷たい表情に氷河は酷く戸惑う。
こんなことは初めてのことだった。
カミュが出迎えるのでも、氷河が出迎えるのでも、ほんの僅か宮を離れていただけのことであっても、おかえりなさいという瞬間はいつも、会いたかった、と言わんばかりに甘く笑み崩れて、ただいま、と言うのが常であったのに。
何か、怒らせるようなことをしただろうか。
わからない。
宮を出るときには、いつものやさしいカミュだった。
ならば何か出先で気分を害する出来事でもあったのか。それにしたって、感情露わに氷河に当たり散らすような真似をするカミュではないはずなのだが。
氷河の戸惑いをよそに、カミュは足を止めず、氷河の存在がないかのように、どんどんと宮の方へと歩いて行ってしまう。
「……先生……?」
心臓が爆発しそうにどきどきと脈打って、不安に心が黒く塗りつぶされそうだ。
どうしたらいいかわからず、だが、いつまでもここにこうしてただ立っていても仕方がない。
氷河は小走りになってカミュの後を追う。そのことがカミュを苛立たせているのか、カツカツと響く靴の音が剣呑に乱れる。
気後れしてやや距離をとってカミュの後を歩く氷河の鼻腔を、ふ、と甘い香りが擽った。
なんだろう……?
どこか淫靡さを惹起させるような、下品なほどに甘ったるさを主張する毒々しい香り。
アルコールではない。
香水のようだ。
カミュのものではない。女神でも多分ない。
男物か女物かもわからないが、多分、これは何かの残り香だ。
激しく脈打っていた鼓動が、嫌な軋みを上げてきゅうと鳴る。
誰かわからぬが、香りが移るほどにぴったりとカミュに触れていたものがいるのだ。
今夜の夜会で何があったのか。
尋ねる勇気もなく、氷河は茫然とその背を追うだけだ。
宮の中へ戻っても、カミュは変わらず冷たい態度のまま氷河に視線もくれなかった。
勝手場に直行し、グラスに水を注いで飲み干す背が、はっきりと氷河を拒絶している。
その冷たさすら怜悧に整ったカミュの横顔の美しさに拍車をかけているが、だが、ランタンの灯の下でカミュの姿をまじまじと見て、氷河の心臓はきゅっと縮み上がった。
ひとつにまとめられていたカミュの髪は乱れ、きっちりと胸元を締め付けていたタイはなにやら意味ありげに緩んでいる。緩んだタイがぶら下がった胸元についたローズピンクは……一瞬、返り血かワインの染みにも見えたが、あの形はもしかしてルージュだろうか。
いつもなら、そこに特別な何かを想像したりはしない。ああ、誰かとぶつかってしまったのだな、と思うだけだ。
妬気など起こりようがないほど、カミュは氷河をとても特別に扱ってくれるから。
だが、わけもわからず拒絶され、突然に冷たくなったカミュの態度の答えが、胸元へ押し当てられたそれにあるようで、氷河は激しく動揺した。
カミュが振り返って氷河を見る。
どれほど厳しく叱られているときでも、深い愛情を常に感じる温かい色をした瞳が、その温度を失っている。氷の聖闘士にふさわしい、絶対零度の瞳があるだけだ。
「そこに立っていられては目障りだ。一人にさせてくれないか」
カミュの唇から放たれた言葉は、氷河の心を折るのに十分だった。
身体が凍りついたように動かない。
「聞こえなかったのか。出て行ってくれ、と言っている」
カミュの口からそんな言葉が発せられる日が来るとは思いもしなかった。
それとも、この上なくいとおしげに、ひょうが、と名を呼ばれた日々の方が泡沫の夢だったのか。
早くしないか、とカミュの指先がイライラとグラスの縁を擦っている。
こぼれそうな涙を堪えて、氷河は、すみません、とようよう声を出した。
踵を返して、勝手場を出て、寝室か書斎へと逃げ込もうとしたが、その背へカミュから、違う、と鋭い声が飛ぶ。
言われたとおりに目の前から消えようとしているのに、とおそるおそる振り返ると、ひどく険しい表情をしたカミュが、「この宮から姿を消せ」と告げた。
「……っ」
今度こそ、もうだめだった。
堪えていた涙は滴となって床へと散り、わかりました、と言って氷河は振り返ることもせず、宮の外へと飛び出した。
**
「………よし。とりあえず顔でも洗うか」
「はい……」
洗面はあっち、と案内されるまでもない。勝手知ったる他人の宮、毎度毎度の駆け込み寺、磨羯宮である。
盛大に濡れた少年の頬に、なるほど、そうきたか、と、共に帰還したカミュの様子と結びつけてうっすら事情を飲み込んだシュラは、詳細を問うことなく、宮に招き入れたのだった。慣れたものである。
バシャバシャと、繊細そうな見た目のわりに、雑な仕草で己の顔に水をかけて涙を洗い流した少年に、シュラはタオルを渡してやる。
ありがとうございます、と受け取ったタオルに顔を押し当てて氷河は肩を震わせている。ひ、と時折、嗚咽を堪える声が漏れている。これでは顔を洗った意味がない。
「念のために聞くが、カミュに酷いことはされてはいないよな?」
「……っ、カ、…っ、俺、……出てい、……ぅっ」
「カミュがお前に『出ていけ』と言った?」
言葉になっていない少年の声を拾い上げてそう繋いでやると金色の頭がこくこくと揺れた。
まさかその嗚咽の理由はたったそれだけか!とシュラはどうしようもなく脱力したが、同時に安堵もしていた。
この取り乱しようでは、シュラが想定していた以上の悪い事態が起こったのではないかと懸念していたのだが、思っていたような「酷いこと」は起きていないようだ。
「……まあ、あれだ、気にするな」
口出しする意味がないことを知っているが、そんな慰めを口にしたのは正直、眠かったからだ。
今夜は、自分の顔面の自覚ある強面ぶりに、女神のお傍づきは端から辞退はしていたが、代わりに、不穏な動きをしていた外野をこっそりと片づけるという務めを一手に引き受け、それゆえ、それなりに疲労していた。
残りの黄金聖闘士はまだ女神の護衛についているが、シュラはちょっとしたトラブルが起きたカミュを連れて聖域に帰るため、一足先にお役御免となったばかりだ。
今、ぐずぐずとこぼしている少年の涙があまり意味のないものだと知っている以上、長々とつきあうのもばからしい。俺は早く寝たい。
少しの間水音を響かせていた氷河はやがてすぐに、シュラ、と意を決したかのように顔を上げた。
おっと。立ち直りが前より早い。いいぞ、いい傾向だ。シュラがこの状況に慣れてきたように、少年も耐性がつき始めているのかもしれない。
たいして高級でもない安タオルで擦ったせいか氷河の目尻は赤く腫れている。
「何があったか知っているなら教えて欲しい」
「………………聞かない方がいいと思うが」
「そ、んなに、」
「あー……待て待て、多分、お前が想像しているのとはちょっと違う」
「……っ、何を聞かされても覚悟はある」
「いや、どうかな、それは」
むしろ俺にその覚悟がない、というか。後でカミュが怖い、というか。
いつもなら、ここで青い瞳にうっすらと水の膜を張った少年にしつこく食い下がられて困らされることになるのだが、今夜は少々勝手が違っていた。
わかりました、と、泣いていたことが嘘のようにきっぱりとした声で、「ではカミュに聞くことにします」と少年はのたもうた。
ギョッとしたのはシュラだ。
濡れてよれよれになったタオルをシュラの胸へ押しつけて、踵を返して力強く歩き始めた氷河の細い肩を慌てて掴む。
「だめだ、戻るな」
「なぜですか」
「…………………まずいことになる」
主に明日の俺が。
「覚悟はある、と言いました」
「泣くことになるぞ。お前のその判断はもしかしたらカミュも傷つけるかもしれない」
「……それも含めて、受け止めます、俺。カミュのことなら全部」
ずいぶんと。
半ば感心した思いでシュラは少年のつむじを見下ろした。
行きすぎた師の愛情に振り回されているのを不憫だと感じていたこともあったが、なかなかどうして成長したものだ。
長く二人を見守っていた甲斐もあるというものだ。(別に見守りたかったわけではなく、単に見せつけられていただけだが、そうやって自分を騙しておかないと毎度巻き込まれる自分の滑稽さが耐えられない)
「あと………」
「あと?」
「……キグナス聖衣を宝瓶宮に置いてきたままなので、一度戻らないことにはどこへも行けません」
動揺して聖衣を忘れた自分を情けない、と思ったのだろう、少しだけ少年の頬は赤い。
一足飛びに大人になったようで驚かされたばかりだが、そういうところは彼らしくて、シュラは思わず笑った。
「気持ちはわかるがせめて……そうだな、明日の朝までは少なくとも待て」
「嫌です、と言ったら?」
磨羯宮から上へ行く権利の全てを握っている黄金聖闘士相手にずいぶんな口をきくじゃないか、とシュラは内心でまた笑った。ならば力ずくで通さないまで、と、彼と拳を合わせてみてもなかなか楽しそうだと思ったが、結局、まあいいだろう、とシュラは掴んでいた彼の肩を解放した。
少なくとも俺は止めたぞ、カミュ。
思いの外成長していたお前の弟子を、俺もお前ももう少し信用してみようじゃないか。
**
気持ちが急いて、石段を上る足がもつれる。
何故気づかなかったのか。やはり、カミュはいつものカミュではなかった。何か問題を抱えていたんだ。間違いない。
冷たく拒絶されたことに涙を禁じ得ず、竦んだ心をそのままに逃げるように宝瓶宮を後にしたが、シュラと話しているうちに、氷河は不思議に冷静さを取り戻していた。
違う、あれは、本来のカミュではない。カミュが心変わりしない、氷河を拒絶するはずがないという自信を持っているわけではない。
だが、あんな、淫靡な空気を纏わせて、髪を、服を乱した状態をそのままに聖域に戻って来るカミュは絶対にあり得ない。
己の有様に気が回らないほど、カミュはきっと余裕をなくしていたのだ。
深い傷を負ったのだろうか。
血の臭いをごまかすためにわざと毒々しい香りを……?
その可能性に思い至れば、もう居ても立ってもいられなくなっていた。シュラから血の臭いが漂っていたことも、悪い想像に拍車をかけた。
冷たく拒絶されたことがどうでもいいことに思えるほど、その想像は氷河の全身を凍りつかせる。
本当に、氷河のことが疎ましくなっただけであることが確認できるならもうそれでいい。そうであれば、今までのことを感謝して宝瓶宮を去るだけだ。カミュが何かを一人で苦しんでいるのでさえなければ、何だっていい。
ずっとずっと氷河を支え、導き続けてくれた師の身の無事さえ確認できれば、後はもう、何も、何もいらない。
最後はほとんど駆けるようにして石段を上りきり、氷河は再びの宝瓶宮に飛び込む。
姿を探す必要はなかった。
灯りが薄く漏れる勝手場の扉を開けば、先ほどと一歩も違わぬ位置にカミュが片膝をついて屈み込んでいた。
「先生!!」
やはり怪我をしていたのだ、と、慌てて氷河はカミュに駆け寄る。
「なぜ戻ってきた……!」
怒気をはらんだカミュの声が、それ以上近づくな、と氷河を制す。
だが、それどころではない。
カミュの額に尋常ではない汗が浮かんで、酷く息が乱れている。
大丈夫ですか、と、肩を貸そうとした氷河の身体を、恐ろしいほどの力でカミュの腕が払いのけた。
「わたしに触るな!」
ダン、と床に尻餅をついた氷河を、は、は、と肩で息をしているカミュが睨みつける。
「でも、先生、どこか怪我を、」
「どこも問題はない、それ以上近寄るんじゃない」
矛盾した言葉だ。理知的なカミュの唇から発せられたとは思えない。
さらには、酷く苦しそうに胸をかきむしりながら、「Merde!」と普段のカミュでは絶対にあり得ないスラングが飛び出して、氷河は目を丸くした。
「……よりによって……こんなものを……」
荒い息の合間、今頃奴にミロがうんと痛みを与えているといいが、と不穏な言葉が途切れ途切れにこぼれる。
血管が浮き出るほど握った拳が激しく震え、床の上へぽたぽたと汗が滴り落ちている。
乱れたタイを解こうとしているのか、時折カミュの指が首へとさまようが、酷い震えにまるで制御を失った指先は言うことをきかないようだ。あまりにカミュが苦しそうで見ていられず、氷河はおそるおそるカミュににじり寄った。
「来るな、というのがわからんのか、氷河」
「でも、先生、せめて首元をゆるめましょう、そのままでは息が……」
「だめだ!」
カミュは再び氷河の腕を払ったが、予測していれば、もう拒絶は怖くない。殴られても平気だ。カミュをこのままにはできない、と氷河は首元へ手を回した。
タイをしゅるりと首から抜いて、シャツの釦もついでに外そうと指をかけたところで、カミュの手が氷河の腕を掴んだ。
「………それ以上、煽ってくれるな……!」
だめだ、もうもたん、と言うや否や、荒い息を吐いたカミュが氷河の身体を床の上へ押しつけ、圧し掛かった。
間近で見上げたカミュの紅い瞳の瞳孔が開いている。───薬物症状だ。
外傷ではなく、内側をカミュは蝕まれて苦しんでいるのだ、ということに気づいたのと、乱暴に唇を塞がれたのは同時だった。
**
カミュが漂わせていた甘ったるい香りは、汗と、牡の匂いと混じって、くらくらと氷河にも目眩を起こさせる。
微かに香る残り香だけでやけに艶めかしく氷河を煽るそれを、カミュは、一体どれほど浴びたのだろう。
ごり、と、固く漲った一物に喉奥を突かれて、息苦しさと嘔気がこみ上げ、知らず氷河の目尻に涙が浮かぶ。
カミュはその様子に気づいた様子はなく、氷河よりよほど苦しそうに、ふっふっと獣のように息を逃している。
カミュはほとんど前をくつろげただけ、シャツの裾が乱れ、ズボンが勝手場の石畳で汚れるのを気にも止めずに、ただ、己の身体で暴れ回る欲望を吐き出さんとしている。
普段のカミュらしさがいくらか残っていたのは最初の瞬間だけだ。唇を合わせて、濡れた舌を絡め合わせたことで、かろうじてカミュをカミュたらしめていたものはすっかりとどこかへ弾け飛んだ。
キスと呼ぶにはあまりに激しい、獣の補食行為のような粘膜の貪りの合間に、カミュのズボンの前を押し上げていた熱い塊が、みるみるうちに質量と固さを増したかと思うと、氷河は下衣を下着ごと膝まで下げられて、さすがに青ざめた。
いつもなら氷河の身体がぐずぐずに緩んで、もう十分ですから、と泣きを入れるまで、やさしく愛撫をほどこしてくれるカミュはここにはいない。
荒れ狂う雄の衝動に支配された男が一人いるだけだ。
互いのために最悪の事態だけは避けたい。
カミュが氷河の足を抱え上げようとするのをどうにか逃れて、氷河は慌てて彼の足下にひざまづき、既にはちきれんばかりに育ったカミュの雄を口に含んだのだ。
己の意図を阻害されたことに、一瞬、カミュの険しい瞳は苛立ちを見せたが、じゅぶ、と音を立てて口に含んだものをしごくと、満足げな唸りとともにそれは閉じられた。
ほ、と安堵したのもだが束の間、カミュが氷河の頭を掴んで腰を押しつけたため、氷河は苦しさで背をしならせた。だが、逃げることはできない。カミュはまるで容赦なく、氷河の頭を掴んで強制的に揺すりたてる。
いつものやり方では足らないのだ、と気づいて、氷河は必死に口に含んだ熱い塊を舐めしゃぶる。
浮いた血管の形がわかるほど、舌をぴったりと押しつけて、喉奥までも使って。
されることはあっても、することは少ない。カミュがあまり氷河にそれをさせないからだ。
慣れない口淫では、男の熱を完全に満足させるには足らないようで、何度も何度も頭を掴まれて揺すられ、だというのに、口の中に入りきらないほど育った男の欲望は苦い蜜をこぼすだけで、一向に果てる気配はない。
そのうち焦れったさに我慢ならなくなったのだろう、カミュが氷河の髪を掴んで己の一物を引き抜いた。
突然に流れ込んだ新鮮な空気に、ごほごほとむせているうちに、あっという間に氷河は身体を裏返され、床に押しつけられた。
しまった、今の間に、こっそり自分でならしておけばよかった、と気づいたが後の祭りだ。(気づいたところでそんな器用な真似が自分にできたかどうか自信はないが)
熱くぬめる切っ先が、まだ閉じられている狭い隘路に押しつけられたかと思うと、次の瞬間には貫かれていた。
「………ッ!」
己の唾液で濡れていたことと、前の夜、任務につく前のカミュと抱き合った名残が残っていたことが幸いしたが、それでも、ほとんど愛撫なしで受け入れたその衝撃は言葉で言い表せない。
「……カ、ミュ、」
せめてもう少し馴染むまで動かないで欲しい、という懇願をしようと振り返ったが、そこに、苦しさで歪むカミュの表情を発見して、どうにかそれを飲み込んだ。内側から苛む制御できない衝動は、多分、身体の痛みよりよほど苦しいに違いない。
ぎちぎちときつく締め付ける肉を強引に割って押し入ったことは、氷河だけではなく、カミュにも痛みをもたらしているだろう。
だがしかし、自分自身をも傷つける行為にも関わらず、氷河の腰を掴んだカミュは激しく己の腰を打ちつけ始めた。
「……あっ、う、ひっ、」
カミュが奥を突く度に声が勝手に漏れる。
受け入れる準備の足らなかったことによる痛みと腹のなかいっぱいを押し広げられた圧迫感、隠しようがない氷河の苦悶の喘ぎは、だが次第に違う色が混じり始める。
カミュの先走りで中が濡れたことで痛みが遠のくと、馴染んだ身体は、気遣いなく出し入れされる怒張にすら愉悦を拾おうとしてしまう。
「あ、そこ、や、カミュ、……ぁ、」
張り出した雁首が氷河の内壁にある膨らみを刺激するたびに、乱暴に掴まれている腰に甘い痺れが走る。いつもなら、喘ぎに甘い懇願が混じるようになるまで、浅い場所にあるそこを何度もぐりぐりと擦られてそろそろ最初の極みが訪れているはずなのに、今日のカミュは己の欲を氷河で慰撫することに夢中で、氷河の感じている切ない疼きは行き場なく、中途半端に漂うばかりだ。
焦らされているようでどうにも堪らない。
いつのまにかすっかりと勃ち上がっていた氷河の雄は、カミュの熱い手のひらに包んでもらえないことをせつながっているかのようにとろとろと透明な雫をこぼしている。
氷河の背へ覆い被さるように律動しているカミュの動きが、強く激しく、極むものへと変わり始めた。
容赦ない抽挿に、あ、ああ、と氷河の唇からはだらしない嬌声がこぼれる。
やがて、ぐぐ、と、ひときわ強くカミュを感じた瞬間、熱い迸りが氷河の腹の中にじわりと広がった。
ふーっと長い息を吐いて、氷河の背へ柔らかな重みが降ってくる。
己の淫猥な昂ぶりが中途半端なままずっと放置されていることは苦しかったが、カミュは、これで、理性を奪う衝動を吐き出して少しは楽になったかもしれない、と───安堵したのも束の間、すぐに氷河は異変に気づく。
ぎちぎちと氷河の肉襞を圧迫する質量が───さらに、増している。
そんな、と驚いていると、圧し掛かった体躯は床にぴったりと氷河を押さえつけたまま、再びゆるゆると律動を始めた。
「……っ、あ、や……ぁ、カミュ、いや、……深い、やぁ……っ」
カミュは黄金聖闘士の中では細身の部類だが、それでも氷河に比べれば一回り以上体躯は大きい。
床に縫い止められるようにぴったりと圧し掛かられれば、逃れようはない。勃ち上がった氷河の雄が石の床に押しつけられて鈍く痛む。だが、それ以上に、密着した体勢でぐっと奥まで腰を進められて、氷河の喉がひ、と小さな叫びを漏らした。
そんな深い場所までカミュを受け入れたことがない。痛いと言うより、未知の領域をこじ開けられる恐怖で涙がこぼれた。
いつもは、氷河のどんな些細な変化すら見落とさず、時には物足らなさを感じてしまうほどやさしいカミュだが、今は、その涙にすら煽られたように、四肢を押さえつける力が強くなる。
「おね、が、……っ、むり、もう、……ア…っぃやだぁ」
カミュのために、決して拒むような真似はすまい、と思っていたにも関わらず、思わず泣き言が漏れ、カミュから逃れるように、ずるずるとずり上がって少しでも挿入を浅くしようとしてしまう。
だが、そんな抵抗はほとんど無駄に等しかった。両肩を抱きしめるように押さえつけられ、カミュの熱い塊は氷河の双丘にカミュの下生えが触れるまで深く捻じ込まれた。
「………ッ!」
最奥だと思っていた場所のさらに奥、こじ開けられた身体の内側が燃えるように熱い。どくどくと脈打つカミュを腹の奥に感じて、チカチカと目の前が白くなる。
気を許せばふっと意識が飛びそうで、だが、簡単に意識を手放せそうにないほど、身体の細胞全部が激しい愉悦で揺さぶられていた。
身体の外側も内側も、ぜんぶカミュに包まれている。
あつくて、おおきい、カミュが氷河をすっかりと満たしている気持ちよさで、ぶるぶると全身が震え、思考が飛び、腹の奥が信じられないほど甘く痺れて気が変になりそうだ。
「……せんせ、こわい、それ、こわいぃ……」
氷河の声が今のカミュに届くとは思えないが、暴力的なほどの烈しさで氷河にもたらされようとしている極みが恐ろしくて、幼子のように泣きじゃくってしまう。睦事の時には、近頃口にしなくなった、先生、という呼び名すら思わずこぼれてしまうほど、もう、全てが限界だった。
先ほどカミュが吐き出した精がぐちゅぐちゅと卑猥な水音を響かせているが、羞恥を感じる余裕もない。
「……っ、ああーっ」
氷河を押さえつけているカミュの唇が、耳朶に触れたことが直接の引き金になった。
は、とこぼした熱い吐息が鼓膜を震わせた瞬間に、背を電流が駆けるような強い疼きとともに、氷河の意識は白く飛んだ。
気を失っていたのは多分そう長い時間ではない。ふっと気がついたときはまだ、カミュに押さえつけられていなければ、四肢が勝手に暴れ回りそうになるほどの強い快感の中にいて、氷河は知らず、咽び泣いていた。これほどの快感の中にいるのに、だが、直接の刺激を受けなかった氷河の雄は白濁を吐き出すでなく、まだきつく屹立したままだ。
「……っ?……せんせ、たすけ、て、……ア、」
射精を伴わない絶頂は初めてのことだ。全身に一気に汗が吹き出て、意識が飛ぶあの感じは確かに極んだ、と言えるものなのに、吐き出すことのなかった欲望がさらなる極みを欲して、身体をまだ疼かせていて、それがどうしようもなくつらく、氷河の眦から涙がこぼれる。
極んだ瞬間に内奥が強くカミュを締め付けていたのだろう、く、と引き攣るような呻きを漏らして、カミュは大きく息を吐いた。
そして、それをきっかけに、カミュはようやく押さえつけていた氷河の四肢を解放して身体を起こす。
解放されて呼吸は楽になったくせに、去っていく熱があまりに切なくて、あ、と物欲しげな声が出たが、次の瞬間には繋がったまま足首を掴まれて身体を反転させられ、悲鳴混じりの嬌声が氷河の喉から迸った。
「あ……ッ、待って、くだ、……、俺、今、いって、ひ…ッ、ん」
片足を抱え上げられて深く挿入され、すっかりとぐずぐずにとろけた身体を揺さぶられて、まだ達した瞬間の甘い痺れが続いていた氷河は声もなく悶え続けた。
「……あ……っ、や、カミュ、もう……あ、……い、く、もう無理です、またいく、いく、あああっ」
何度、達したのだろう。
もう、勃ち上がってすらいない氷河の雄の先端から、たらりと薄い色の雫がこぼれた。
カミュは何度達しても満足することはなく、一向に萎えることのない己の雄をまだ氷河の身体の中に含ませたままだ。
氷河が極まっていようがいまいが、関係なしに、ひたすら繰り返される責め立ては、もう、長時間受け入れすぎてぽってりと赤く膨れた粘膜には刺激が強すぎて、拷問のようだ。
いつの間にか、あの、毒々しい甘さを放つ香りは二人の放った牡の精に凌駕されて消えている。
この狂乱が、だから、何によってもたらされているものかもう氷河にはわからない。
突かれても抜かれても気持ちいい。快楽もここまで極まるとむしろつらいのだと初めて知った。
甘く痺れっぱなしの身体がつらすぎて、何度か口淫に逃げたが、少しのインターバルを置いただけで、すぐにカミュは氷河の身体に己を埋めたがった。
カミュ自身も終わらない快楽が酷く苦しいのだろう。
汗でカミュの髪は重く水を含んでいる。
「……っ、あ、ぅ…、んっ、ふぁぁ、も、ほんとうに、げんかい、で、ひぁ、」
氷河の身体を揺さぶっていたカミュの動きがまた激しくなる。もう、どこからどこまでが自分の身体で、どこがカミュの身体かわからない。
熱い息を吐いて、まだだ、とほとんど地獄のような宣言をした師の姿に、だが、氷河は不思議に甘く胸を疼かせていた。
こんなにぎらぎらと余裕なく氷河を求めるカミュを見たのは初めてだ。
苦しくはないか。
痛くはないか。
いつだってカミュは、もどかしいほど氷河にやさしく、遠慮がちに触れる。
抱き合っていても、氷河一人を満足させて、自分は最後までしないことも少なくはない。
恥ずかしさを堪えて、カミュはよいのですか、俺、まだ大丈夫です、と誘ってみても、お前のその気持ちだけで十分だ、とはぐらかすように笑われて終わりだ。
明日に響くといけないからもう寝なさい、とやさしく額にキスをされて、抱きしめられたまま眠るのは、それはそれで幸せで不満はないのだが。
自分一人がカミュを求めているのを諫められているようで、いつまでたっても、師と弟子という力関係から抜け出せないことはずっと切なかった。
氷河の身体のことなど気遣う余裕なく、衝動に身を任せているカミュを、いとおしい、と思うのは不遜だろうか。
もう指一本動かすことすらつらい腕を持ち上げて、カミュの頭を抱きしめるようすれば、苦しそうに歪んでいたカミュの表情がふと柔らいだような気がした。
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目が覚めているのに、瞼が持ち上がらないほど全身が倦怠感に包まれている。
頬に触れている何も纏わぬ温かな胸が、とくとくと一定のリズムで拍動していて、それが心地よくて氷河は目を閉じたままそっとその胸へ顔を埋めた。
氷河の髪を繰り返し梳いていた指がふと止まり、つむじにそっとキスが落とされる。
「起きたのか」
氷河は頷いて、己を抱く師を見上げた。
やさしく甘く───それでいて居たたまれなさを滲ませている瞳がそこにはある。
「身体は痛まないか……?」
大丈夫です、と言おうとしたが、さんざん喘がされた喉はつぶれ、声は掠れて音とならなかった。
そもそもベッドへ移動した記憶もない。多分、カミュが運んでくれたのだろう。
互いに何も纏っていないところからして、湯浴みはさせてくれたが、着替えさせるところまではカミュも気力がもたず、そのまま倒れるようにベッドへもつれこんで眠った、というところか。
僅か身じろぎしただけで、さまざまな関節が鈍く痛み、カミュを受け入れ続けたところはじんわりと熱を持っていた。腰はすっかり砕けていて、四肢もついているのかいないのかわからないほど、感覚はなくなっていた。
この状態で、大丈夫も何もないだろう。
仕方なく氷河は、少し悪い顔をして笑って、
(すごかったです、カミュ)
と告げた。
いつもは感情を見せないカミュが、たじろいだように瞳を瞬かせ、そして、深いため息をついて氷河の背を抱いてうなだれた。
「……………わたしは落ち込んでいるぞ、氷河……」
あのせんせいが、と氷河は少し目を見開いだ。
困った。
声が出なくて良かった。カミュがすごく……かわいくていとおしい。
「一歩間違えばお前にもっと酷いことをしていたかもしれない、いや、十分に無理をさせたと思うとわたしは自分が許せない。意に染まぬものに操られていたとはいえ、自分の中にあのような獣性があったことが恐ろしい。もしお前がわたしを厭わしいと思うなら、」
カミュ、と、氷河は軋む身体に精一杯むち打って、カミュの唇から次々にこぼれる言葉を遮るように己のそれを押し当てた。
驚いたように開かれたカミュの唇を食んで、ちゅ、と吸い上げれば、抱いた背を強く引き寄せられて、深い口づけを返された。
カミュの濡れた舌がやさしく上顎をくすぐる度に、身体がまた甘く疼いてしまう。もう一滴だって絞り出せないというほど欲を吐き出したばかりであるのに、しあわせな抱擁は別腹、とばかりに、またカミュが欲しいと思ってしまう、自分の方こそ一体どうなっているのか恐ろしい。
唇が離れるときには、は、と恍惚のため息が漏れた。
(カミュこそ、大丈夫なのですか)
「………………いや、大丈夫ではない」
(えっ、どこか怪我でも、)
「自分が腹立たしく、そして、お前がいとおしすぎて、おかしくなってしまいそうだ」
言葉通りに、自分を強く抱きしめるカミュの背を、氷河も強く抱き返した。
(おかしく、なっても、いい、です、)
羞恥を堪えて、耳元でそっとそう囁けばカミュの目がまるく見開かれた。参ったな……と片手で顔を隠すように覆われて、さすがにちょっと明け透けすぎたか、と氷河は羞恥を堪えきれず、
(いつもだとさすがに困ります、けど、)
と口早に言い足した。
カミュの唇が氷河の額にそっと押し当てられる。
「ときどきで済ませる自信がないんだ、わたしは。薬に当てられていたが、別の人格に取って代わっていたわけではない。あの浅ましさは全部、わたし自身のものだ。お前にやさしくしたいのに、しばしば、我を失いそうになって……だから、困っている」
カミュは知っているだろうか。
ありきたりな愛の言葉を囁かれるよりよほど深く、今、氷河が満たされていることを。
こんなにも強く求められて、嬉しくないはずがない。
(俺は、うれしかったです)
素直に告げると、カミュの目がいとしげに細められて、また額にキスを落とされた。
しあわせで、しあわせで、涙が零れそうだ。
(ああ、でも、ひとつだけ、)
「どうした?」
(宝瓶宮に戻るまで、薬が回ってしまわなくて、よかったな、と……。もし……、もし、俺じゃない相手にカミュがあんな風になったら、俺は、すごくつらい……だから、戻るまで、もってくれて、よかった)
胸元に残されていたルージュの跡が思い起こされて、氷河の胸がじくじくと痛む。誰かを相手に、あんな風に情熱的に激しく求めるカミュを想像するだけで気が狂いそうだ。
自分の中に、こんな激しい妬気が存在するとは思いもしなかった。
(俺、今後、カミュが任務に出る度、不安になってしまうかもしれない)
情けないと思ったが、言わずにはいられなかったその告白を、カミュは、ふ、と笑って、案ずることはない、と首を振った。
「心配せずともお前以外にはああはならない。……実のところ、女神をかばってあれを浴びた瞬間に、催淫剤の類だということには気づいた。おそらく即効性だったのだろうな。愚かにも衆目の場で女神に恥をかかせようとしたのだろう」
(でも、それなら、)
「困ったことになったと思ったが、理性で本性を抑えることにはおかげで(と、カミュは指の背で氷河の鼻の頭を撫でた)慣れていたのでな……本当に、どうにか自制できていたんだ、お前の顔を見る瞬間までは。性質の悪い薬くらいではわたしの理性は失わせることはできるものではない」
氷河、お前だけだ、と甘く囁く低い声に、もう本当にどうにかなってしまいそうなほど全身が火照って溶けてしまいそうだ。
そんな氷河を撫でながら、カミュは、くすり、と思い出したように笑う。
「本当に誰でもよいから欲望を満たしたかったなら、シュラでも押し倒していたさ。お前よりはずっとずっと頑丈そうだから、後で落ち込まなくてもよさそうだしな」
(カ、カミュ~~!?)
「はは、冗談だ」
(笑えませんから!)
まだ笑いを帯びた低い声に、わたしを駄目にするのは、お前だけだよ、ともう一度囁かれ、ずるい、と氷河は赤くなり、今回もとばっちり、宝瓶宮のひとつ下の宮では今、主が盛大なくしゃみをしていた。
(fin)